花火と迷大人
著者・こうちゃん
ヒュ〜バァーン
一年に一度の花火大会。やることを終えた俺は人混みを外れ、縁石に座っていた。ふと、気配を感じ顔をあげると、目の前に小学生ぐらいの坊主頭のガキが立っていた。
「うお、なんだよ。お前」
「ねぇねぇおじさん何やってんのー?」
「…うるせぇみりゃわかんだろ。休んでんだよ。お前は親のとこ戻れ」
帰る気配は微塵もなく、坊主はニヤニヤしながら俺の隣に座ってくる。
「いや、だっておじさん気になるかっこしてるんだもん〜両手にフィギュアいっぱいの袋なんか持っちゃってさぁ。
あと、教えといてあげるけどお前って人に軽々しく言わない方がいいよ」
「いいだろ。自由だろうが。あと急に冷静になって指摘してくるな。怖いだろ」
「あはは」
俺は坊主の頭を軽くこずく。
坊主は暴力だー児童虐待だーと騒いでいる。
坊主に興味を失った俺は再び項垂れて考えに耽り出す。
俺はガキの頃から射撃が得意だった。お祭りでは射的でバンバン景品を取りヒーローになれたし、モテた。小学生の射撃大会に出て、タイトルを総ナメしたこともある。
言ってしまえば、逆に射的しか得意じゃなかった。
銃で的を狙う、、なんて簡単なことをやって、こんなに褒められるのだろうと人生舐め腐っていた。
射撃しかしてこなかった俺は頭が良くなく、高校卒業後も大学には行かずバイトで食い繋ぎ、フラフラ過ごしていた。
ある夏、暇を持て余し特に意味もなく近所のお祭りに寄った。
「にいちゃん、暇ならこれやってみな」
やることもなく、ただただ歩いていた俺が、同じ屋台の前を3回通った頃、銃を片手に持った射的屋のおっちゃんに声をかけられた。
郷愁を感じ、やってみると景品がバンバン取れる。七発ある球、一発一発に対して一個の景品を取った俺は、苦虫を噛み潰したかのような射的屋のおっちゃんを背にし、その足で景品を売り払いに行った。1日分ぐらいの食費になり、味を占めた俺はその日から射的ハンターとして祭り中の景品を取って生活していた。
「ねぇおじさん、何考えてんの。まぁどうせロクでもないことだと思うけど」
声がし、横を見ると、まだ坊主が座っている。
「ウルセェな。早くどっか行けよ」
「ねぇおじさんには夢とかあった?」
昔を思い出し、感慨深くなっていた俺は、何を思ったか、坊主の質問に答えていた。
「警察官かな。銃を扱うのが得意だったからさ。銃を使って、悪をやっつけたかったんだ」
楽しくなってきて笑顔の俺は、坊主に顔を向ける。坊主は鼻をほじり、「ふーん」とだけ言っている。
「興味ねぇなら聞くなよ」
「いやあるよ。ただ楽しそうにしてるおじさんに興味がないだけ。ねぇ、なんで警察官にならなかったの」
全てにおいて舐めてきているこの坊主にイライラしたが、暇だし会話を続ける。
「頭も悪かったし、親にも恥ずかしくて言えなかった」
「なんで?」
「銃を使って悪を倒したいです。なんてガキみたいなこと言っても納得してくれなかっただろうしな」
「今からなればいいじゃん」
「もう28だぞ?なれるわけねぇよ」
「そんなんわかんないじゃん。なれるよ」
「わかったような口聞くな。てか坊主、親はどこにいる?」
途端に坊主は顔を暗くし、下を向く。
「いないよ。1人だよ」
「どうして?」
「ずーっと1人なんだ。ここにずーっと」
坊主も何か抱えてるんだな…そう思った俺は袋から一つフィギュアを取り出す。
「これやるよ」
坊主は花が咲いたような笑顔になった。
「いいの!?おじさん!ありがとう」
「じゃあ僕からもおじさんに良い事教えてあげる。警察官になるためには試験を受ける必要があってねぇ。そのための勉強する本は本屋さんに売ってるから買ってみるといいよ」
「そんぐらい知ってるわ」
どこまでもこまっしゃくれたガキだな…心の中ではそう思っていても、どこか憎めない。
「はぁあ楽しかった!ねぇねぇおじさん。あそこに出てくる的、撃ってよ。流石のおじさんでも無理か〜」
話していたら、ふと思い出したかのように小僧は空高く指を指す。
舐めるなよ。

ヒュ〜
空高く白い煙がゆらゆら揺れながら上がっていく。俺は空へ向け銃をかざす。
バァーン
何やってんだか…
「満足か?」
横を見るとフィギュアだけ落ちていて小僧はいなかった。
俺はいつものようにフィギュアを売り払い、その足で本屋へ向かった。
制帽を身につけた今でも時々思い出す。
もしかしたら、あの坊主は夏にだけ現れる花火の化身だったのかもしれない