なんか惜しい DAYS
著者・林 光太郎
5月、蚊と格闘するのを諦めた。その時僕は窓を開け、本を読んでいた。窓の外にはスカイツリーが聳え立っている。
ぷ〜ん
我が家に入ってきたやつらはうざったい。
その瞬間、家の主は彼らに代わった。
どうせ短い命だろうし、好きにすればいいと、彼らに無条件降伏をし、家を明け渡すために外に出る。出て、振り返る。ちょこちょこ連なる長屋の一番端に我が家はある。隣の家の玄関先には豊かな緑が溢れんばかりに繁っている。引っ越しの挨拶回りをした時に、狭い土地の有効活用のために、この辺の人は軒下を使って園芸をやっているのだと教わった。うちもいつかやりたい…という気持ちを胸に抱きつつ、玄関先に落ちてるタバコの吸い殻を拾う。
この長屋に引っ越してきて一週間。荷解きもだいぶ済み、周辺の住環境にも慣れてきた。近くには商店街があり、買い物には困らない。何も考えず安さに惹かれ、風呂無しのこの家に引っ越してきた。のだが、住んでから、近くに銭湯があることがわかり、安心した。まだ5月だ。週3で通えば、匂いは問題ないだろう。
ただ古い家の埃っぽさには弊壁している。どうやら僕にはハウスダストアレルギーがあるようだ。
ある映画に影響を受けて、この街、この古民家に引っ越してきた。質素だが、自分の生活に向き合った丁寧な暮らし。ここならできると思い、引っ越してきた。その際、消費社会の象徴ともいえる、ティッシュは使わないと決めた。
だが、一晩で決めた主張のみでは、アレルギーには敵わなかった。徐々に条件を緩くし、今では家に常備しないというところで妥協をしている。
そんな僕は今日も、ポケットティッシュをもらうためだけに散歩をする。