禁断
著者・こうちゃん
南口。歓楽街。人々は笑いさざめき、自分が主役になれる場を見つけ出そうとスポットライトを求め浮遊する。その周りを、闇に眼の慣れたハイエナたちが群がり食いつこうとする。
通りを一本外れたところに一組の男女が寄り添い歩いていく。白いブラウスに、首にはリボン。男はスーツに茶色の鞄を右手に持つ。
「先生、好きだということを人に言いたくなるのってなんでなんでしょう?」
「それはね、人に自分はその人の良さを知っているんだぞってアピールしたいからなんだよ」
男が言う。左腕に若い女の腕を絡ませ、指には銀色のリングを煌めかせる。
高架下を抜ける。
「では私は何で言っちゃいけないんでしょう?」
男は小さくため息をつき、
「言っているじゃないか。卒業まで我慢してくれって」
「先生、私寂しいわ、こんなに愛しているのに」
男は静かに女を抱き寄せる。女は男の腕をすり抜け、夜の公園のほうへ走り去ってしまう。

「せんせーい! 月がきれいねー!」
男は女の無邪気さにホッと一安心し、空を見上げる女を見て笑みをこぼす。
女は男に涙が見えないよう、必死に空を見上げ、自分勝手な男を愛してしまった悔しさに唇を噛みしめた。