番台への第一歩
著者・こうちゃん
自動ドアの開くガシャガシャ音が聞こえ、同時に僕は入り口に身体を向け挨拶をする。
「こんにちはー」
「こんにちは」
低音のいぶし銀な声で挨拶を返してくれたのは宮元さんだ。宮元さんとの出会いは僕が初めて番台をやった日に遡る。
その日は三月いっぱいで番台を卒業する、かおりさんがサポートで見守っていてくれていた。二十時を過ぎ、番台にも慣れてきて余裕が生まれてきた頃
「次の予定があるから私入ってきちゃっていい?」
とかおりさんがお風呂へ。暖簾をくぐる間際に
「サーフィンをやってる風の男性が来ると思うから、その方には私が中にいること伝えておいてもらえる?」
と言い残していった。それから十五分ほど経ち、肌のこんがり焼けた体格の良い男性が
「かおりちゃんいる? 今日で最後って聞いたからビール持ってきたんだけど」
と言いながら入ってこられた。先に入っていることを伝え、ビールを預かり。宮元さんはお風呂に入っていった。
出てきた二人はロビーに座り、
「かんぱーい」
と缶と缶をこつんとぶつける。宮元さんがかおりさんへ番台の労をねぎらう。年齢も立場も性別も違う二人が銭湯で出会い、ビールを飲んでいる。
「おーい、なにボーっとしてんだよ」
「あっすいません、何ですか?」
目の前に宮本さんがいる。首にタオルをかけ、そのタオルで顔を拭いている宮本さんは、頭から湯気が出んばかりにホカホカしている。
「なんか飲みたいものあるか? 一緒におごってやるよ」
「ありがとうございます!では牛乳をくださいっ」
「あいよ、これお金」
宮本さんはドリンクケースから牛乳を二本持ってきて、一本渡してくれた。宮本さんが牛乳を持ち上げ、声を張り上げた。
「はい、かんぱーい」
文/著者 プロフィール
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