単純な男
著者・こうちゃん
千円を持ち、街へ飛び出す。
引っ越しをしてきて1週間。東京には、コンビニが多いなーと感動したのも初日だけで、3日過ぎたあたりから、家の周辺には同じチェーンのコンビニしかないことに気づき、この日どうしてもからあげを食べたかった僕は、青い電光光るロー◯ンの場所をスマホを頼りに探していた。

夜の人の多さに僕は焦っていた。それで急いで掴んできた千円札をスマホと一緒に持ち、地図アプリを見ながら、歩きスマホをしていた。
前を見ていなかった僕は、一段下がった植樹部分に気づかず、足を持っていかれつまずき、転んだ。転ぶ瞬間はやけにスローモーションで、目の前をひらひら舞い落ちるものがあるのを冷静に見ていた。右半身を強打し肘は擦りむき、膝はズキズキ痛む。膝をさすっていると、
「大丈夫ですか?」
と、後ろで声がした。
振り返ると、白いTシャツを着た夜目にわかり辛いが若い女性らしき人が心配そうにこちらを見つめている。
「大丈夫ですよ。ちょっと転んじゃっただけで、、、イタタ」
大丈夫な姿を示そうと慌てた僕は、痛いほうの膝を地面につき、無理に起きあがろうとした。そして姿勢を崩した。
「ちょっと!」
女性は、慌てて近づいてき、僕の片腕を抱き抱え、起き上がるのを支えてくれる。
こんな時でも、左腕に当たる柔らかい感触を意識してしまう。
女性はもう一度しゃがみ込み、
「落とし物はスマホぐらいですね...はいっ」
と転がったスマホを渡してくれ、女性は足早に歩いていってしまう。
「あの、、ありがとうございます」
やっとの思いで口に出せた感謝の気持ちが女性に聞こえたのかは定かではない。
どこかに行こうとしていたのだが、行き先を忘れたので、痛む右膝をカバーしながら、ゆっくり帰る。
東京は怖いところだと刷り込まれて育った。しかし、東京も良い人がいるもんだなーと思えた。また会いたいなーと嬉々とした。
玄関を開けようとポケットを探って、今更思い出す。ない!千円札がない!!
千円取られた。だが、彼女になら捧げてもいいとさえ思う。