ロッカーロッカー
著者・林 光太郎
コンビニでお金を払う。小銭入れを脇に挟み、すいませんすいません、と言いながら一枚ずつ小銭を出していく。
後ろの列はどんどん長くなる。やっと出し終えた、と思ったら、財布の中の10円玉と5円玉を間違えて出している。前に立つ店員は苦笑いをして、「あと5円ですね」と言う。急いでレシートを受け取り、身体をやや後ろに捻り、首だけで会釈しながら、すいませんすいません遅れてすいませんと店を出ていく。
なんで俺はこんな情けなくなってしまったんだ、と自分を責めながら、家に帰り、玄関を開け、壁にかかった相棒を見つめた。
活力に溢れていた日々、もう帰ってこない青春を思う。
俺はギタリストだ。ステージに上がり、ギターをかき鳴らす。俺のギターの演奏に合わせて、ボーカルが歌を合わせる。ステージの顔は俺。観客は俺ばっかりを見ている。
俺がイケメンだからって?いやいや違う。
演奏が上手いって?それも違う。
ただギターがロッカーで出来ているだけだ。
ロッカーといえば、学校にあったような無機質な銀色の四角い箱を思い浮かべるだろう。
俺はそれを金に塗り、弦を張って演奏している。
四角く、分厚いから、上面にドリンクを置いて飲みながらだって演奏できるんだ。
さらに弦を外せば、荷物を収納することだって出来る。
なぜロッカーで演奏するかって?バズりたかっただけさ。
そして狙い通りバズった。YouTubeでは100万再生を記録し、テレビで演奏もした。相棒片手に、全国五大ドームツアーだってこなした。
人生バラ色! 順風満帆! 人生が動き出したその時だった。
事故で片腕を失っちまった。酔った運転手による、衝突事故。完全なる巻き込まれだった。医者には「命だけでも助かってよかったですね」なんて言われたけど、ギターが弾けなくなった俺はもう死んだも同然だ。
バンド仲間は「もう一度やろう!」と言ってくれ、俺も片手で演奏できるよう必死で練習した。片手でもなんとか出来る奏法を習得。扱いづらいロッカーギターは諦め、普通のギターに切り替え、復帰ライブを企画したんだ。
しかし、ロッカーギターを手放した俺らをみに来てくれるお客はいなかった。事務所との契約も切られた。
職を失った俺らバンドは解散。他のメンバーはバイトを頑張っているらしいが、片手のない俺を受け入れてくれるバイト先はなく、俺だけ無職が続いている。
カップ麺にお湯を注ぎ、待つ間、ロッカーギターに触れてみる。
こいつは言っている。
「まだお前は終わったわけじゃねぇだろ。一緒にまたやろうぜ」
って。
どんな状況でも相棒は俺に元気をくれるんだ。またなってやるよ、ロッカーロッカーに。

文/著者 プロフィール
