「すみジャズ」は、2人の男たちの熱い思いから始まった
今年10回目を迎える、すみだストリートジャズフェスティバル。錦糸公園のほか、墨田区内の店や街角で音楽が流れ、カップルや家族連れも多く訪れるイベントです。
今年の出演バンドは450組で、8月16日から18日まで開催します。実行委員会には約100人が在籍し、ボランティアは1000人。この大規模なイベントは、10年前に会社経営者の能厚準(たくみ・こうじゅん)さんと山田直大(やまだ・なおひろ)さんが、たった2人で始めました。
お互いのパートナーを通して親交が始まり、意気投合。飲んでいる時にジャズフェスの企画案が出たそうです。どのように実現したか、そして込められた思いなどについて話してもらいました。
原点は、子どもたちに見せたかった「かっこいい大人」の姿
-- 何故、すみジャズを始めようと思われたのですか?
山田:子どもたちに何か残したいと思ったことが一番大きかったです。ちょうどね、世界不況の流れが強かった時なんですよ。子どもって大人の背中を見て育つでしょう。だから、萎縮している大人の姿ではなく、かっこいい大人の背中を見せたいって思いました。
能:二人とも、特にジャズ好きでもないしね。飲んでいるときに、何か地域貢献につながるイベントをやってみようかっていう話になって、ジャズが挙がったんです。ジャズは普段聴く機会があまりないから、足を運ぼうと思ってもらえそうかなと。でも、来てもらえれば分かりますが、実際はジャズ以外の音楽も演奏しています。そのあたりはゆるめです。
-- 全く何もないところからのスタートですよね。どのように進めていったのですか?
能:参考にしたのは、私の出身地、大阪・高槻で開かれている「高槻ジャズストリート」です。地元の友人に代表者を紹介してもらいました。運営のやり方だけでなく機材も貸してもらって、本当にお世話になりました。
山田:コンセプトとしては、あらゆる世代の人に楽しんでもらうこと。だからキッズ広場も設けて、家族で来てもらえる場所作りを心がけましたね。
試行錯誤の準備期間。「民意をあげる」とは?
-- 準備は順調でしたか?
山田:いや、当初は本当に大変でした。公園の使用許可も墨田区から中々下りなくて。区の方に「民意をあげてください」って言われました。この言葉の意味が分かったのは、しばらくしてからです。
能:2人とも試行錯誤です。町の人や企業の理解や協力も得られなくて、どうしようと思いながらも定期的にボランティアも含めた会合を区内の飲食店で開いていました。最初は30人、次に50人と増えていくうちに、だんだん町の人の目も変わってきて、協力してくれる人も増えていきました。そして、区内の企業や区の協力も得られるようになっていきました。
山田:自分たちがいくら良いと思ってもだめで、周りが応援してくれて実現するものなんですよね。
-- 苦労して迎えた初日はいかがでしたか?
能:飲食も物販も全然売れませんでした。これはまずいと作戦会議を夜中までやって、販売方法や、売店の位置を変えて動線を見直しました。何とか翌日から売れるようになりましたが、期間中はほぼ寝られなかったですね。
-- 大変な初年度だったんですね。軌道にのったのはいつ頃ですか?
山田:金銭面では、2年目からは次年度以降の運営費に回したり、被災地の寄付をしたりといったことができるようになりました。でも、運営全体を考えると3年目くらいでしょうか。朝、錦糸町駅から人の波ができるようになったんです。
-- その後着々と、10年目を迎えるまでになったイベントの土台を作りました。その秘訣は何でしょうか?
山田:私たち2人が、お互い足りない点を補い合えるから良かったんだと思いますよ。私は計画性があって数字に強い。能さんは人をまとめて盛り上げていく。役割分担ができていました。
掃除を徹底。目指せ「現状以上復帰」
-- ボランティアは、千人近く集まるとか。どのように集めているのですか?
能:SNSを使っています。初年度で500人くらいでした。年代は、子どもから70代くらいの方までと幅広いですね。ボランティアが誘導や、物販、飲食の販売と全てやります。
-- 終わった後、きれいに片付けることを徹底されています。
能:これはずっとやっています。目指しているのは、「現状以上復帰」。朝5時から昼くらいまで、40人くらいで掃除しています。数時間前まで飲んでいるので、ふらふらです。そんな中、かけてもらった掃除のおじさんの言葉が嬉しかったですね。「イベントの翌日は清掃が大変だけど、すみジャズの翌日は違う。始める前よりきれいだ」って。
常にサプライズがあるイベントにして欲しい
-- 山田さんは4年前に実行委の代表を降りて、能さんも、今年が実行委員長を務めるのは最後ですよね。振り返って、すみジャズを始めて良かったなと思うことはありますか?
能:このイベントをきっかけに3組が結婚して、子どもができたカップルもいることです。これがなかったら生まれなかったであろう命が誕生しています。これが最大のご褒美。
山田:最初は親だけが来たのに、そのうち子どもを連れてきて、子どもが大きくなってもまだ来てくれる。それが嬉しいですね。
-- 継ぐ次世代に期待することはありますか?
能:ルーティンになったらつまらないから、常にサプライズのあるイベントであって欲しいです。
山田:そうだね。こんなことをするのかって悔しくなるくらいのサプライズがあったらいいね。
能:今私たちはそれぞれ別のイベントを手がけています。高槻で教えてもらったことを、他で生かすことで恩送りをして、裾野を広げていきたいです。
取材:土田ゆかり