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  4. 【連載小説】押鴨町のとあるカフェ #1

【連載小説】押鴨町のとあるカフェ #1

2024年1月25日 最終更新日時 : 2024年2月28日 野元野元

著者・野元

春にまかせます

 コンコンと窓を叩く音がして、わたしは目を覚ました。

 カーテンを開けると、昼間の明るい日差しが差し込んで目を細めた。時計は午後二時過ぎ。風が強いのか外の木々が揺れていた。きっと木の枝が窓にでも当たったんだろう。

 わたしは日差しに当てられた部屋を見回した。脱ぎっぱなしのスーツ、机の上を占領した空のカップ麺と空き缶、台所の洗い物、床にまで溢れた洗濯物……、ひどく散らかっていた。

 会社を辞めて、一ヶ月以上が経った。辞めてから、あまり外には出れていない。電池が切れたようにベッドの上から動けなかった。出来る限り寝て、寝れなくなったらしばらく起きて、また寝るの繰り返し。テレビも、漫画も、ゲームも、全部がつまらなく感じた。なにが面白いのか分からなかった。

 何も考えないようにしていたけど、上司の怒鳴り声と、先輩の舌打ちと、自分の失敗した場面が寝ても覚めても、脳裏にリピートされ、飽きもせず何度も泣き出してしまった。

 大人なのに弱い。そして役に立たない。わたしはなんて情けないんだろう。

 「あなたはいらない」そう社会に言われた気がした。

 カタンカタンと、また物音がした。お風呂場からだ。

 恐る恐るお風呂場を覗いたけど、もちろん誰もいない。シャンプーのボトルが床に転がっていたので、これが倒れたのだろうか。そういえばしばらくお風呂に入れていなかった。

 ……うん、シャワーだけでも浴びよう。わたしはその場で服を脱いだ。思い立ったらすぐ行動しないと、たぶんやる気がなくなってしまう。

 久しぶりのシャワーは気持ちが良かった。べたついた髪がサラサラになっていく。

 「そろそろ、買い物に行かないと……。今日は外に出ようかな」

 シャワーを浴びながら、そう自然と思えた。お風呂場から出て、髪をドライヤーでよく乾かして、化粧水をして適当な服を着る。化粧は迷ったけどしなかった。

 多分いまのわたしは、やり始めると途中でやる気がなくなってしまう。財布と携帯電話、家の鍵、それだけを持って、サンダルを履いて、とにかく外に出る。

 玄関の扉を開けると温かな日差しが顔に当たった。下校中の子供たちの楽しそうな声が聞こえる。

 すぐ近くのコンビニに行こうかと思ったけど、すこし散歩しようかな。

 わたしは近くにいた子供たちの後を追って何気なく歩き始めた。

 頭のなかは常に霧がかかったようにぼうっとしていた。なにか考え始めると不安になってくるから、自分で考えるのを止めているのかもしれない。わたしはB級映画のゾンビみたいにのろのろと歩いていた。

 時折、子供たちの「こっちだよ、こっち、はやく来いよ!」という声が聞こえて、わたしもそちらに向かって歩いた。

 しばらくすると、押鴨町の商店街に出た。今日は縁日なのか人通りが多い。子供たちは人ごみを縫うように走り、笑い声を響かせて姿が見えなくなった。

 押鴨商店街は、押鴨神社を中心に古い商店が立ち並ぶ東京でも有名な商店街だ。自宅から歩いて行ける距離なのに、あまり来たことがない。仕事が忙しくて、休日は自宅に篭ってばかりだった。

 「……せっかくだし歩いてみよう」

 商店街は賑やかで活気があった。露店も多く並んでいて、みんな至るところで足を止めている。道が狭く歩きづらい。

 わたしはだんだんと人ごみに疲れてきた。金魚が水槽の水面で呼吸をするように、わたしは上を向いてパクパクと呼吸する。

 はあ、帰ろうかな。帰りにコンビニに寄って冷凍食品とお酒を買い込んで、しばらくまた寝て過ごそう……。

 そう思ったところで、人ごみのなかから「こっちだよ、こっち!」と子どもの声が聞こえた。

 声のした方を見ると、押鴨神社の鳥居があった。鳥居の奥には社殿に続く階段が続いている。押鴨神社は小山の中腹に本殿がある。お参りがてら、神社のベンチで休もうかな。わたしは人ごみを抜け、神社の鳥居をくぐって階段を上った。

 鈍った体に長い階段はきつかった。はあ、はあ、と息が切れる。

 階段をあがって顔を上げると、桜が舞っていた。

 ああ、そうか。季節はすっかり春なのか。ざあざあと枝が揺れ、桜の花びらがわたしの頬を撫でていく。

 押鴨神社の境内は商店街と打って変わって静かだった。巫女のおばあさんがほうきで掃除をしているだけで、参拝客はひとりもいない。

 ベンチで休む前にお参りしようかな。財布から小銭を取り出して、賽銭箱にお金を入れた。両手を合わせて祈る。

 「どうか……」その続きの言葉が見つからなかった。死なせて、と言葉が頭をよぎったけど、それを言ってはいけないことは分かる。

 けれど、わたしはどうなりたいのだろう。この先、生きていく自信がない。きちんとした大人をやっていく自信がない。普通でいい、普通の人間でいいのに、それさえ難しい気がする。こんな人間はさっさと社会から消えたほうがいいんじゃないか。そのほうが皆のために……。

 結局、わたしは何も願えなかった。願い事もできない自分に気が滅入る。わたしはどうしたらいいんだろう。

 ふと、お賽銭箱の横におみくじの箱があるのが目に入った。

 【おみくじ、百円。お金は賽銭箱へ】

 これで占ってみようかな。わたしは何となく、おみくじをしてみることにした。

 百円玉を賽銭箱に入れて、おみくじの箱に手を突っ込む。無数のくじがわたしの手に触れる。これだ。そう思って一枚抜き取ってみた。

 この先の人生はこれに賭けてしまおう。そんなやけっぱちなことを思いながら、くじを開いた。白紙だった。何も書かれていない。

 え、わたしの人生って……。視界がぼやける。ショックだ、神様にも見放されたような気分になった。

 しばらく放心して、巫女のおばあさんにくじを見せることにした。もう一回引き直していいのだろうか。それとも、返金してもらって帰ったほうがいいのだろうか。いや、返金してもらうのはどちらでもいいんだけど……。

 「お仕事中にすいません。いまおみくじを引いたのですが、何も書かれていなくて……。これってどうすればいいですか」

 わたしは掃除をしているおばあさんに話しかけた。

 「おやおやおや、まあまあ。あなたがこのくじを引いたんですか」

 おばあさんはくじを手にとり目を丸くした。そんなに珍しいのだろうか、この印刷ミスは。

 おばあさんは神妙な顔をしてくじをわたしに返してきた。

 「こちらに来ていただけますか」

 おばあさんに境内の奥に案内される。返金をしてもらえるのだろうか。そう思って、わたしもついていく。

 【これより先は神域、立ち入りを禁ずる】

そんな立て看板をいくつか過ぎ、鬱蒼とした林の前でおばあさんは立ち止まった。

 「今日はこちらからお帰りください」そう言って手で歩く方向を示す。

 その先には古い鳥居があり、またその先に小道が続いている。

 「えっ、このくじはどうすればいいですか」

 おばあさんは言葉を選ぶようにゆっくりとした口調で「そのくじは大変貴重なものです。お持ち帰りください。決して捨ててはいけません。安易に人に譲ってもいけません。どうか大切にお持ちください」

 わたしは困惑した。「このくじは何なんですか」

 「それは……、何なのでしょう。私にも分かりません。時折、そういった不思議なくじを引く方がいるんです。ご用意した覚えのないくじを引く方が。どこの言語か分からない言葉が書かれていたり、予言めいたものが書いてあったり……。でも、白紙のくじを見るのは初めてです。さあさ、この道を歩いてお帰りください。そういった不思議なくじを引いた方は、この道から帰られることになっています」

 「は、はあ……」わたしはよく理解できぬまま、背を押されて歩き始めた。背に触れるおばあさんの手は強引ではなくて優しい。

 「歩きながら聞いてください。この道を歩く間は転ばないようにしてください。後ろを振り向いてもいけません。道を逸れてもいけません。立ち止まってもいけません。誰かに話しかけられても応えないでください。いいですね、ここは神様がお通りになる道です。ただ真っ直ぐに出口に向かってください」

 わたしが頷くと、おばあさんは背中を押す手を離した。

 「あなたの幸せを願っています。また顔を見せに来てください」

 わたしは鳥居をくぐり、真っ直ぐに歩き始めた。

文/著者 プロフィール

野元
野元
押上でハーブティー専門店ウッドチャック(カフェ)を営む。
詩、小説を書くのが趣味で、自分の本を出版するのが夢。
※「押鴨町のとあるカフェ」はウッドチャックをモデルにしておりますが、実在のお客さま、スタッフ、関係者は登場しません。
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