やせる
著者・林 光太郎
「いらないかもだけど送ります」
Nozoが「鎌倉」アルバムに写真を追加しました。
二週間前に友達何人かで行った鎌倉旅行。僕と希がメインで写っている写真が希から個人ラインで送られてきた。SNSに上げるには、もう時間が経ちすぎている。作ってくれたアルバムの中から何枚か気に入ったのを保存だけして、スマホを閉じようとしたら
「2月に会う時はめちゃくちゃやせるからよろしく」
ときた。
どういうつもりだろう、僕は逡巡する。2月には、また友達何人かで旅行に行く約束をしている。僕と希は2月まで会う予定はないので、2月の旅行で会う時のことを見越した発言なのだろうが、なぜ僕個人にその内容を送ってくるのだろう。
もしかして希は僕に気があり、「2月までには痩せて可愛くなるから、よく見てね」と伝えたいのだろうか。僕は希が今のままで十分可愛いと思っている。だから、「痩せる必要ないんじゃない」と返信するか、いや、鎌倉旅行の際「お正月で食べすぎちゃった」と発言し、写真映りをよく気にしていたから、そのことを踏まえた上での「痩せる」という決意表明なのかもしれない。
うぅーん、わからない。
僕は当たり障りのない、少しユーモアを含んだ調子で
「じゃあ僕はめちゃくちゃ太くなっているね」
と送った。
希
鎌倉旅行は楽しかった。久々に会えた仲間との旅行だったし、何より啓との写真をいっぱい撮れた。行く前から懸念してた太っていないかということも、旅行一週間前から毎日ジョギングをしていたおかげで気にならない程度まで持っていけた。
来月の旅行も楽しむぞ。と、啓と写った写真を閉じ、スマホをカバンにしまいかけたところで、母からきた着信に出る。
「もしもし、どうしたの?」
「あぁのっちゃん、今年もダメだったわぁ」
「ああ、そうなんだ...来年来年!切り替えていこっ」
「お母さんもそう思ってたら、なんと2月に再販するらしいのよ!!今度は負けないからねっ。今度こそのっちゃんも協力してね」
「おぉ!良かったね!!わかった!この前旅行で出来なかった分、2月がんばるね!」
私とお母さんは10年前に放送されていた弓道をテーマにしたアニメが好きだ。このアニメは弓道がテーマということもあり、毎年年越しの際に限定100名しかGetできないアニメオリジナル破魔弓が販売される。放送から10年経ったのにも関わらず、ドラマ化、ミュージカル化までした本作の人気は凄まじく、主要キャラごとに作られる破魔弓はネット販売直後即完する。
私と母は毎年、年末風物詩の音楽番組などへは目もくれず、この破魔弓の購入に全神経を注ぐのだ。今年は旅行に行くことが決まっていたので、母に託した。スマホ2台から応募していたのが、今年は母の1台からしかできず、確率的に50%しか無いわけだから当たるはずがないと、半ば諦めていた。それがなぜかはわからないが、2月に再び販売されるらしい。
電話を切った後、私は2月にも旅行に行くことを思い出した。
今から電話して謝るか、いや、申し訳がない。私と母の推しキャラは一緒であって、そのことがコミュニケーションをするきっかけにもなっている。2回も母を失望させてはいられない。旅行に行きながら、破魔弓を購入する。そう決まった私の心は誰かにこの気持ちを伝えたくなっていた。
旅行中、グッズが気になってソワソワしてしまい満足に楽しめないかもしれない...。そうなってしまう可能性がある、という意を込めて、私は啓に
「2月に会う時はめちゃくちゃ矢競るからよろしく」
と送った。
後でトークを見返していたところ、私は変換ミスをしていたことに気づいた。まぁいい。伝わるだろう。