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  4. 【連載小説】押鴨町のとあるカフェ #2

【連載小説】押鴨町のとあるカフェ #2

2024年2月10日 最終更新日時 : 2024年2月28日 野元野元

著者・野元

こわい道を進めば

 歩き始めた道は異様なほど静かだった。

 鳥の声も、虫の声も聞こえない。生き物の気配がしない。耳鳴りがするほどシンとしていた。

 耳にはわたしの歩く音と呼吸音、そして時々木々が揺れる音だけ。ひどく居心地が悪かった。ここに居ちゃいけない気がした。世界から追いやられているような、自分というものが消えていくような、そんな気がして自然と鼓動と歩調が速くなる。

 しばらく歩いていると、後ろから気配を感じた。わたしの歩調と合わせて、カサカサと何かがついてくる気がする。冷や汗が背中をつたう。

 後ろを見ようか。でも、おばあさんは振り向くなと言っていたし、振り向くのもこわい……。わたしは小走りで道を下って行った。

 鳥居が見えた。鳥居の先には住宅街も見える。出口だ。わたしはいつの間にか全力で走っていた。

 古い木でできた鳥居をくぐると一瞬くらっと眩暈がした。最近運動をしていなかったからだろうか。

  「大丈夫ですか」

  突然、スーツ姿の男に話しかけられた。不意に話しかけられたので、身体がビクッと距離をとる。

  「え、ええ、大丈夫です。すみません、お気遣いいただいて」わたしは乱れた息を整えつつ、相手をよく見た。

 男は背が高く、顔の彫りが深い顔立ちだった。四十代くらいだろうか。もちろん、面識はない。

 だけど、男の表情と声色には覚えがあった。愛想のいい笑顔とこちらを気遣う親切心のある声。上司が営業先でしていた仕事用の顔だ。

 「いや~、会えて良かった。あなたがここに来るのをずっと待っていたんですよ」

 「わたしを?」

 「はい。申し遅れました、私、世界恒常性機構の五十嵐と申します」

 五十嵐と名乗る男はそう言って、名刺を渡してきた。確かに、世界恒常性機構の五十嵐ましらと書かれている。だけど、そんな組織聞いたこともない。

 「怪しい者ではありません。あなたが持っている白紙のくじを譲っていただきたいのです」

 「これを?」わたしは手に持っていたくじを五十嵐に見せた。

 「ええ! それです! どうでしょう、そちら譲っていただけないでしょうか。もちろん、タダとは言いません」

 五十嵐は鞄から封筒を取り出した。「ここに百万円があります。百万円で譲っていただけませんか?」

 「え、いや、あの……」わたしは突然の大金に眉をひそめた。さっきから意味が分からない。変なくじを引いて、変な道を歩かされて、変な男に会って、大金を見せられて……。

 わたしの怪訝な態度に五十嵐は少し焦った様子で「……もしかして、金額にご不満ですか? たしかに、そのくじの価値を考えれば百万円は安いと感じるかもしれません。もしご希望の金額があればおっしゃってください。後日になってしまいますが、ご希望の金額を可能な限りご用意いたします」とまくし立てた。

 「あの、そもそもこのくじは何なんですか」

 五十嵐は納得がいった顔で「……ああ、ご存知ないんですね」と頷いた。

 「まず、後ろをご覧ください」

 五十嵐はわたしの後ろを指さした。「あなたが通ってきた道はありますか」

 わたしは振り返ると、息をのんだ。通ってきた道も林も鳥居も無くなっていて、細い路地裏しかない。

 「いいですか、いまあなたは本来関わるべきではない世界に関わろうとしています。私はそれをおすすめしません。大した理由もなく関わるには危険すぎるからです。その白紙のくじは貴重なものですが、使い方によってはあなたを不幸にします。このまま何も知らず、関わらず、お金に替えてしまって忘れるのが一番だと思いますよ。それとも、あなたはそれが必要ですか?」

 わたしは手元のくじを見た。何も書かれていないただの白い紙で、特別なくじには見えない。

 そしてわたしはこのくじを必要としていない。このくじを手にしてから変なことに巻き込まれるので、手放したいくらいだった。

 しかし、この五十嵐という男に渡して良いのだろうか。いまは無職だからお金はあるだけ助かるけど、こんな胡散臭い男から大金を受け取りたくもなかった。

 「うーん……」わたしは腕を組んで悩んでいると、五十嵐は「じゃあ、ひとまずくじを見せてくれませんか。本物かどうかよく見て確かめたいので」と手を差し出してきた。

 「それくらいなら、全然——」わたしが五十嵐にくじを手渡す瞬間に、突如わたしの足元から黒猫が飛び出してきて、くじを咥えて奪い取った。

 空高くまで跳躍した黒猫は見事な着地をし、ちらりとこちらを一瞥すると、そのまま路地裏に歩いていった。

 「うわ、また厄介なのに盗られたなぁ……。最悪だ」五十嵐は頭を抱えていた。

 「追いかけないんですか?」

 「……いえ。私、今日は諦めます。あの猫から取り戻すには、とても骨が折れそうなので……。さあ、あなたは後を追ってください。きっとあなたのことを待っていますよ」

 なぜあの猫がわたしを待っているのだろう。五十嵐は急かすようにわたしの背を押した。

 「次に会ったときは私にくじを譲ってくださいね。他のモノに譲ってはダメですよ」

 「はあ」わたしは曖昧な返事をして、うす暗い路地裏に入った。

文/著者 プロフィール

野元
野元
押上でハーブティー専門店ウッドチャック(カフェ)を営む。
詩、小説を書くのが趣味で、自分の本を出版するのが夢。
※「押鴨町のとあるカフェ」はウッドチャックをモデルにしておりますが、実在のお客さま、スタッフ、関係者は登場しません。
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100種類以上のオリジナルブレンドを揃えており、ハーブの資格を持ったプロのブレンダーがその場でブレンドします。 小さなお店ですが、都内最大級の種類の豊富さです。

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