たい焼きの夢

チヒロちゃんは、おやつのたい焼きを食べようと、紙袋に手を入れました。でも、紙袋は空っぽです。袋の底には、一枚の手紙が入っていました。

錦糸町 たい焼き屋

拝啓

 勝手ながら、旅立つことにしました。鯛に生まれてきたからには、一度で良いから海で泳いでみたいのです。おやつの時間においしく召し上がっていただくことができず、大変心苦しく思っております。きっとまた戻って参りますので、少しの間ご辛抱いただけませんでしょうか。誠に申し訳ございません。

たい焼き

 たい焼きはさまよい続け、ある晩とうとう海にたどり着きました。海はとても穏やかで、ほのかにバラの香りがします。ひょっとしたら、ここは外国の海なのかもしれません。たい焼きは、月明かりに照らされながら夜の海を泳ぎ回ります。
 すると突然、空が雲に覆われ、流れが速くなりました。嵐がやってきたに違いありません。海面は渦を巻き、低いうなり声をあげます。たい焼きは、お腹からあんこが飛び出すのを感じました。必死に流れに逆らおうとしますが、そのうち尻尾の先が折れ曲がり、どちらが海面なのか分からなくなってしまいました。

 チヒロちゃんは洗濯機からパジャマを取り出します。すると、粉々になったたい焼きが一緒に出てきました。チヒロちゃんはあんこをかき集め、川へ流してやりました。

たい焼き屋

デラシネ書館
藤岡真衣