河童の干物
「これは一体、なんの干物ですか?」
スーツを着た男が、干物屋さんで見慣れないものを見つけました。
「あら、それは河童ね」
店主のお婆さんが言いました。
「河童?」
男は大きく目を見開きます。
「たまに、魚と一緒に網にかかってしまうのよ」
店主は、干からびた河童を脇によけながらこたえます。
「それ、いくらで売って下さいますか?是非うちの博物館に譲って頂きたいのですが」
男が差し出す名刺には、博物館館長と書かれています。
「これは売り物ではないのよ」
店主は、干物を並べ直しながらこたえます。
「とても貴重な資料なんです。お金は十分お出ししますので」
男は内ポケットから厚い封筒を取り出します。ちょうどその時、チヒロちゃんがアジの干物を抱えてお会計を待っていました。
「ごめんなさい、また今度にしてちょうだいな」
それでも、男は引き下がろうとしません。
「あなたは河童についての知識がおありなのですか?失礼ですが、このようなものを素人が扱うべきではありませんよ」
店主が行ってしまうと、男はしぶしぶ立ち去りました。
「最近はめっきり少なくなったのよ」
店主はヤカンを傾け、河童に水をかけます。すると河童はみるみる膨れ、チヒロちゃんと同じくらいの身長になりました。河童はキョロキョロ辺りを見回すと、どこかへ走って行きました。
チヒロちゃんは、玄関の前で干からびたミミズを見つけました。じょうろで水をかけてみますが、ミミズは干からびたままです。
デラシネ書館
藤岡真衣