はじめてのお化け屋敷
近頃夜道が明るくなったため、お岩さんは長らく人間を驚かすことができずにいます。ストレスがたまってしまったお岩さんは、お化け屋敷の面接を受けることにしました。
面接官はメガネをかけ直し、ひとつ咳払いをします。
「まず、自己紹介をお願いします」
「私、民谷伊右衛門の妻でございます。年齢は二百十六歳。夫と二人仲睦まじく暮らしておりましたが、お花という若い……」
「シフトの希望はありますか?なければこちらで適当に入れてしまいます」
面接官は手際よくメモを取ると、お岩さんをじっくりと見ます。
「身だしなみについてですが、ちょっと目玉が飛び出し過ぎていますね。それから髪の毛がだいぶ抜け落ちているようなので、仕事中はこちらのかつらをつけてください。休憩は四十五分以内、試用期間の時給は八百六十円です」
面接官はお岩さんを持ち場に案内します。
「お客様がこの井戸の前を通りかかったら、勢いよく飛び出してください」
お岩さんが井戸の中で待ち構えていると、足音が聞こえてきました。お岩さんはとっさに井戸から飛び出しますが、あまりにも勢いをつけすぎたせいで足を滑らせてしまいました。お岩さんは井戸から転げ落ち、かつらを床に落としてしまいます。
チヒロちゃんはかつらを拾って渡そうとしますが、お岩さんは顔を赤らめその場から走り去ってしまいました。
休憩室で肩を落とすお岩さんに、面接官の男が声をかけます。
「大丈夫ですよ。初日はみんなこんな感じです」
デラシネ書館
藤岡真衣