メデューサの庭
ベンチに腰掛ける女の頭の上で、蛇がうごめいています。チヒロちゃんが蛇の口元にミミズをそっと差し出すと、一匹が勢いよく飛びつきます。
女が突然振り向き、チヒロちゃんを睨みつけます。チヒロちゃんの体は、たちまち石に変わってしまいました。
「随分石の多い庭ですなぁ」
庭師は目を丸くして言います。
「あの木を切り倒してちょうだい」
女は庭の隅で枝を広げる松の木を指さします。
「なんであんなにきれいな松、切っちまうんだい」
庭師は思わず大きな声を上げました。
「石を置く場所がもう無いのです」
女は小さな子どもの石像に手をのせながら言います。
「奥さん、石はたくさん置けば良いってものではありませんよ。美しい庭のあり方っていうのは……」
庭師が言い終わらない内に、女が口を開きます。
「美しい庭なんて、私の醜い髪とは不釣り合いですわ」
女は目を伏せ、頭に巻かれた布をするすると解きます。頭の上で無数の蛇がうごめいている様子を見た庭師は、感嘆の声を上げました。
「これはまた見ごとな髪型ですなぁ。こういった型破りの様式こそ大事にしなけりゃならねぇってもんですよ、奥さん」
「まぁ」
女は顔をほのかに赤らめました。
「その蛇、垣根で囲ってもよいですかね。素敵なもんを見ると垣根で囲いたくなっちまうんですよ」
庭師は手際よく垣根をつくり、女の頭に乗せました。
「まるでどっかの庭園みてぇだ」
女は頭に垣根を乗せて、外を歩きます。もう誰にも蛇を馬鹿にされることはありません。女は鳥のさえずる声に耳を傾けながら、大きく深呼吸をしました。太陽の光に目を細めた女は、長い間空を見上げていなかったことに気がつきました。
チヒロちゃんは公園のベンチで目を覚ましました。垣根を頭に乗せた女が、隣で優しく微笑んでいます。
向島 デラシネ書館
藤岡真衣