【江戸っ子でい】老舗寿司屋の大将はサーファーでファッションリーダー?
※この記事は2021年秋号すみだノートフリーペーパーに掲載されたものです。
文:稲葉一弘
すみだで暮らす江戸っ子たちのONとOFF
富澤弘さん
今回は東駒形3丁目にある大正6年創業の寿司店「末廣鮨」の三代目店主、富澤弘さん(65才)を取材しました。
下町のお寿司屋さんといえば頑固大将という印象がありますが、富澤さんは初めてのお客様でも温かい笑顔で迎え入れてくれます。
若い頃の富澤さんは寿司職人の堅いイメージとはちがい、都会的なファッションと甘いマスクで、雑誌に載ることもありました。地元ではファンも多かったのではないかと思います。
芸能関係の仕事の誘いもあったという富澤さんですが、職人気質で厳しかったお父様の反対で敢え無く断念。
三代目として「末廣鮨」を継ぐことに決めた後は、寿司職人になるために一生懸命に修行していました。
忙しい毎日のリフレッシュにと御宿海岸を訪れた休日、そこで見たサーファーのかっこいい姿をみて、サーフィンをはじめました。
職人の厳しい世界と自由なサーファーの世界、このギャップに衝撃を受けた富澤さんは、それからというもの、お店の仕事を終えるとそのまま海に向かい、日の出とともにサーフィンを楽しんで、お店の開店時間に戻ってくるという生活を40年近く続けていました。ジムに通って体を鍛え、腕前は本場のハワイでも通用するものだったそうです。
「お母さんの介護を機に引退したけど、本当にサーフィンが大好きだったな」と懐かしそうに語る富澤さん、お話を聞いているうちにお寿司屋さんの白衣が白いウェットスーツに見えてくるほど活き活きと話されていました。
現在はお客様とのお喋りが楽しみとのことです。取材をしている際にも近所に引っ越してきたばかりの若いご夫婦が来店し、美味しいお寿司と富澤さんとの会話を楽しんでいました。
“ON”は老舗の寿司職人、“OFF”はサーファーでファッションリーダー。一見、相見えない2つの世界を知っている富澤さんだからこそ、お客様を包み込むような優しいコミュニケーションが生まれるのだと感じました。
文/著者 プロフィール
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生まれも育ちも墨田区で、実家は吾妻橋にあった洋食店と喫茶店。
大好きな墨田区の魅力を多くの人に知って貰いたいと思い「すみだノート」に参加させて頂きました。
すみだに暮らす人の魅力的で多様なライフスタイルを発信していきたいと思ってます。