「すみだ音楽会」開催レポート −街のオーケストラと町工場の音がコラボレーション!-
文:田中未来
2023年6月17日(土)、すみだトリフォニーホール大ホールにて「すみだ音楽会 街にあふれる音を皆様と」が開催されました。
金属、プラスチック、繊維、印刷工場など、数多くの町工場が存在する「ものづくりの街」墨田区では、様々なものづくりの「音」が街中に溢れています。本イベントは、ものづくりの音とオーケストラの音を融合して、「すみだの音」を生み出すというコンセプトのもと企画された特別な音楽会。演奏は、すみだトリフォニーホールを本拠地として活動する新日本フィルハーモニー交響楽団によるもの。
当日は、墨田区の金属加工メーカー・株式会社浜野製作所の職人がオーケストラの一員として出演して町工場の音を奏でたり、滝廉太郎作曲の「花」を、墨田区に関わる皆さまが歌う映像に合わせてオーケストラが伴奏をつけたり、充実のひとときとなりました。
コンサートは4歳以上のお子さまから入場可能で、会場にはご家族で来場するお客さまが多く見受けられたほか、「花」の歌唱に参加した方々や地元住民の方が集い、終始和やかな雰囲気が漂っていました。
音楽会の冒頭は、イタリアの作曲家ロッシーニによる「スイス軍の行進」(歌劇『ウィリアム・テル』序曲より)の華々しい一曲で開幕。
続く二曲目には、「ワルツ王」とも呼ばれたオーストリアの作曲家ヨハン・シュトラウスII世が手がけた「美しく青きドナウ」を、すみだの工場の音を収録した映像と共に披露。曲中、浜野製作所の協力を経て電気溶接機の音を収録した映像が流れると、職人が「美しく青きドナウ」の旋律に合わせた音程を奏でるように機械を操作したり、オーケストラが映像内の機械音に演奏を合わせる場面も。その意外なパフォーマンスが観客の皆様を驚かせていました。
演奏後、指揮者の水戸博之さんは本曲について、「金属加工の機械の音に合わせてオーケストラをまとめたのは初の試み。機械が音程を奏でられるとは知らなかった、これからの(演奏に)可能性を感じる」と語っています。
三曲目は、ヨハン・シュトラウスII世の弟ヨーゼフ・シュトラウスによる「鍛冶屋のポルカ」。本曲は金づちと、加熱した金属を載せる作業台(=金床:かなとこ)を打楽器として用いるのが特徴です。演奏が始まると、浜野製作所の専務取締役である金岡裕之さんが、トレードマークの真っ赤なユニフォームを着て舞台に登場。腕まくりをしたり、タオルを頭に巻いたり「いつも通り」の動作をしながら、曲の要所要所で金づちを叩き、打楽器奏者として見事オーケストラの一員になっていました。演奏途中には景気付けの一杯として缶ビールをあおる場面もあり、会場の笑いを誘いつつ、演奏後には一際大きな拍手が送られました。
毎日YouTubeの動画で楽曲を聴きながらイメージトレーニングを重ねたと話す金岡さん。
ものづくりとオーケストラの共通点について司会者に尋ねられると「一番大事なのはチームワーク」と即答し、「職人一人ひとりの腕が立つだけでなく、全体で一緒に何かをやらないと良いものはつくれない」と説得力のある回答も。
四曲目には、アメリカの作曲家アンダーソンによる「タイプライター」を披露。実物のタイプライターが登場する本曲では、錦糸町のOLに扮した女性が舞台上に登場し、曲に合わせてタイプライターを自在に操作しながら、リズミカルな音色を奏でます。演奏前に名刺交換をしたり、自撮り写真を撮ったりユーモラスなパフォーマンスを魅せてくれた女性の正体は、新日本フィルの楽団員で打楽器奏者の腰野真那さん。プロの役者のような演技力とタイプライターの演奏力が発揮された一曲でした。
軽快な四曲目と打って変わって、次曲はソヴィエトの作曲家による交響的エピソード「鉄工場」op. 19。わずか3分ほどの短い曲にもかかわらず、大打楽器の力強い演奏が強烈な印象を残します。本曲も実際の金属板と金づちが楽器として用いられ、金岡専務が舞台上に再登場し、金属板を叩く姿が違和感なくオーケストラの演奏と融合していました。
最後は、墨田区民愛唱歌にも指定されている滝廉太郎による「花」を、事前収録された映像と共にお披露目。墨田区に関わる様々な方々の協力を経て、参加者の方が歌う「花」をメドレー形式につなげた映像に合わせて、新日本フィルが生演奏で伴奏をつけました。指揮者の水戸さんは、「歌う人によって表情やテンポ感、味わいも異なりカラーがある。それぞれの方々の人生が曲の中に投影されているように感じました」とコメント。
映像には、錦糸町駅長や第21代すみだ親善大使、すみだトリフォニーホールやすみだ北斎美術館の関係者、墨田区の園児、学生、大学教員、住職、墨田区長など数多くの方々が登場しています。また、演奏の途中に、おしなり商店街振興組合、本所吾妻橋商店会、東京東信用金庫のマスコットキャラクターが登壇し、子どもたちを喜ばせていました。すみだの皆様の歌声とオーケストラが一心同体となった心温まる演奏のあと、アンコール曲として「ラデツキー行進曲」を観客の拍手と合わせて演奏し、終演となりました。
なお、本イベントは墨田区による企画「地方創生のための音楽事業『すみだのオーケストラ・コンサート』」を、東京東信用金庫が信金中央金庫の地方創生事業「SCBふるさと応援団」に推薦し、寄付対象事業として選出されたものです。今後も、ものづくりの街と音楽都市すみだとして、産業と音楽が競演する機会が増えることに期待が高まります。
イベント名:「すみだ音楽会 街にあふれる音を皆様と」
主催:墨田区
共催:公益財団法人 新日本フィルハーモニー交響楽団、公益財団法人 墨田区文化振興財団
協力:東京東信用金庫