すみだ北斎美術館「北斎 大いなる山岳」開幕レポート -北斎の浮世絵とともに旅する日本の名山-
文:田中未来

先日、累計入館者数が100万人を達成したすみだ北斎美術館にて、北斎とその門人が描いた日本列島の山々の魅力に迫る企画展『北斎 大いなる山岳』(会期:8月27日まで)が、現在開催中です。開幕に先立って催された内覧会より、本展の展示構成やおすすめの見どころについて紹介します。

「冨嶽三十六景」シリーズや『北斎漫画』をはじめ、北斎が描いた山々は自然風景としての山だけではなく、信仰のための登山や山とともに暮らす人々の様子、山にまつわる伝説に着想を得たものなど多岐にわたります。本展覧会は、4つの章に分けて北斎や門人が描いた山の表現を紹介すると同時に、日本人と山の深いつながりを見ていくもの。出品作品に描かれた山は30におよび、前期・後期あわせて約100点の展示を予定しています。

作品解説に加えて、山の説明や実際の写真がパネルで展示されるほか、本展を企画した担当学芸員による、登山愛にあふれた現地レポートも要チェック。「赤富士」の出現する条件や、北斎が描いた通称「桶屋の富士」に描かれた真相などのコラムもあって、読み応え十分。


登山口にあたるプロローグでは「日本人と山」をテーマに、日本人と山との精神的なつながりをたどります。信仰と旅がセットで行われた江戸時代、木曽街道や甲州街道、日光街道などを鳥瞰図法で描いた「木曽路名所一覧」は同館初公開。ほかにも、山を御神体とした山岳信仰のための登山風景が、北斎の手によってダイナミックに描かれています。


全国の山々を旅するような気持ちで楽しめるのが、1合目(第1章)「富士山から低山まで」。本章では、北斎や門人が日本各地の山を描いた作品をエリアごとに紹介し、関東、中部、近畿、四国・中国・九州の山々が連なります。北斎の代表作「冨嶽三十六景」シリーズをはじめ、北斎の初期の門人にあたる昇亭北寿(しょうていほくじゅ)によるユニークな山岳表現も見逃せません。


2合目「山のくらし」では、木こりや猟師、金山の採掘など、山で働き暮らす人々の営みを描いた作品を展示。アクロバティックな作業風景が印象的な岩茸取(いわたけとり)や管流し(くだながし)、思わず足がすくみそうになる籠渡しなど、過酷でスリリングな仕事の様子が、『北斎漫画』の優れた観察眼を通して伝わってきます。


山にまつわる伝説や怪談をモチーフとした物語を紹介する3合目「山と伝説ー山怪ー」。神聖な場であるとともに異界への入り口でもあった山には、鬼や天狗、山姥など、人ならざる存在がいると信じられてきました。北斎の創意工夫によって描かれた、不気味な迫力を感じる妖怪たちは、鑑賞者のイマジネーションにも刺激を与えそうです。企画展『北斎 大いなる山岳』は2023年8月27日(日)まで。ぜひ、夏休みに足を運んでみてはいかがでしょうか。

