安心・安全な環境で、もう一度ゆっくり湯に浸かってほしい
文:田中未来

「御谷湯」で高齢者を対象に
入浴支援が行われました
地域住民のボランティアによる、高齢者を対象とした入浴支援が、石原の公衆浴場「御谷湯(みこくゆ)」にて、5月27日(土)に実施されました。
遠方からも銭湯ファンが訪れる御谷湯は、2015年に「人と環境に優しい福祉型銭湯」としてリニューアルオープン。施設内の至るところにバリアフリー設計を採用し、車椅子のまま入れる大きさのエレベーターや、要介護者とその家族が利用できる福祉型家族風呂を設置したほか、雨水をお手洗いに利活用するなど、これまで様々な取り組みを行なってきました。
オーナーの伊藤林(しげる)さんは、「認知症や身体の不自由など、高齢化や障がいを理由に、これまで銭湯に来られていたお客さまの足が遠のいてしまうということがあった。各々の事情により、ひとりで銭湯に来ることが出来なくなった人たちに、大きな湯船に浸かったり、お客様同士での会話を楽しんでもらいたい想いがあった」と語ります。
当施設の2階にテナントを構える障がい者支援施設(就労継続支援B型サービス)「カラコネオフィス」を運営するボーン・クロイドさん(N P O法人カラフル・コネクターズ理事長)は、京都にある銭湯で、障がい者を対象に入浴介助を行うボランティア活動について現地で学び、御谷湯でも同様の試みができるのではないかと伊藤さんに相談したそうです。
ふたりの想いが一致し、地域住民や近隣のデイサービス施設職員へのボランティア呼びかけや、墨田区社会福祉協議会との連携によって、数年前に準備委員会を設置。その後、利用者が安心・安全に入浴できるよう、意見交換や模擬体験を繰り返し、この度の入浴支援が実現しました。
今回は、支援対象者を「自力で歩行可能だが、ひとりで入浴することに不安のある高齢者」に絞り、70代から90代までの男女各2名、計4名の希望者が集まりました。当日のボランティアには、石原・横網地域の住民や町内会の人々によるグループ団体「石横処(いしよこどころ)」のメンバーや、ボランティアに興味のある住民が有志で参加し、営業時間前の13時から15時の間に、血圧測定や着替えの手伝い、入浴中の見守り、入浴後のアフターケアなどを行いました。

70代の男性は、「いつもはシャワーだけだったが、今日は10年ぶりにお湯に浸かって気持ちがよかった」と笑顔でコメント。4階の女性用フロア(※日替わりで男女フロアは入替)では、ボランティア参加者自らが水着に着替えて、高齢者の方と一緒に湯に浸かる光景も。入浴後は、ボランティアの方が、女性の髪をドライヤーで乾かしながら談笑するひとときもありました。

ボランティアを率いる中心的立場として、現場で的確な指示や指導を行なっていた舟越智之さん(エバーウォーク両国施設長)も、入浴者に積極的に声かけを行っていました。

今後の展望について、カラコネオフィスのボーンさんは「今回は対象者を高齢者に限定しているが、今後は障がいのある方々も対象範囲として広げていきたい」と述べた上で、「地域の中で障がいのある方たちが外の方たちに支えられるだけでなく、支えていく力も必要です。障がいのある方たちも、今後は入浴支援をサポートする形で関わっていけたら」と語ります。
オーナーの伊藤さんは、入浴支援の活動を長続きさせるためには、地域運動として地域の住民を主体に継続していくことが大切であると言います。ボランティアに初参加した女性は、「空いた時間で出来ることをしたい」と、次回参加について前向きに検討されていました。

御谷湯による入浴支援は、毎月第3土曜日の13時〜15時頃まで。次回開催は7月15日(土)を予定しています。入浴希望者やボランティア志望の方は、御谷湯までお問い合わせを。