その日は8月14日
腹が鳴った。
飯を買いに行く。その前にクーラーを切る。築91年のボロ家。あっという間に冷気が隙間という隙間から逃げていく。家が暑いことを認知した上で、帰ってくるのは苦痛である。そのため、冷気がまだ残っている段階で慌てて家を出る。帰ってきた時、冷気など残っていないことなど分かっているのに。
歩いて、5分の範囲にコンビニは3軒。北西に2軒。南に一軒。
一番近い北西のコンビニにまず向かう。
明治通りを渡る直前の角に工場(こうば)がある。そこはおっちゃんが父親と2人で営んでいる。少し覗いてみると、おっちゃんはいなかったが、父親である爺さんが機械でガチャンガチャンと金属を切断していた。邪魔しても悪いと、声をかけずに行く。ここの父子にはとてもお世話になっている。
相撲を見に両国へ連れていってもらったり、
爺さんと道端ですれ違った時「これからスーパー行くから、工場で少し休んでてよ」と言われ、番を任せれたのだなと思い、待った。2、30分で両手にいっぱいの荷物を持って戻ってきたので、帰ろうとすると、
「買いすぎちゃったから、これ持っていきな」
とステーキ肉の入ったパックを渡された。
もう爺さんとは二ヶ月近く、会話していない。挨拶ぐらいすれば良かった…と後悔。
コンビニに着く。食べたかったものはない。他の食品を見ても、食べたいと思えるものはない。暑いし面倒だが、歩いて2、3分ほどでもう一軒のコンビニに着く。向かうか。
明治通りを歩く。目尻の横を一筋の汗が落ち、背中には熱がこもる。
前からは爺さん、後ろからは自転車を漕ぐ音。ちょうど10mぐらい先で、両者がすれ違う。自転車に乗るのは肩幅のしっかりした男。男はスイスイと先へ進んでいく。爺さん立ち止まり、振り返る。
「けっ、自転車バカがよ」
僕にしか聞こえないほどの声で吐き捨てる。
自転車にどんな嫌な思いがあるのだろう。不思議に思う。
コンビニに着く。食べたかったものはない。ここまで来たら、妥協はできない。歩いて10分。もう一軒のコンビニに向かう。
中華屋の爺さん。店の前を掃除している。
最後に店を訪れたのは1年以上前だ。その頃は店の前を通るたびに爺さんに挨拶をしていた。
もう忘れているだろうな…と思い、素通りしようとした時
「こんにちは」と挨拶された。慌てて「こんにちは、暑いですね」と返す。「あぁそうだね」
時間にしたら、3秒ほどの会話である。
コンビニに着く。お目当ての「焼きサバのおろしポン酢」はそこにあった。フリーズドライになった豚汁も手に取り、金髪のお姉さんに会計をしてもらう。
家に帰る。急いでクーラーをつける。残しておいたご飯を温め、豚汁にお湯を注ぐ。
焼きサバにわさびをちょこっと載せる。「お昼ご飯、何か調理はしたんですか?」と聞かれたら、胸を張って
「わさびを載せました!」と僕は答えるだろう。このわさびが、飯を進ませる。ちゃぶ台に載せ、いただきます。
今日は、焼きサバを求め、3人の爺さんに出会った。
わさびにむせ返った。