聖夜の行方
著者・こうちゃん
窓にはスカイツリーからの明かり。街は赤や緑に彩られる。恋人たちは笑いさざめき、寒空の下、手を握り合う…。
「じゃんけん、ポン!」
テーブルには一枚の白いお皿。お皿の上には一本のチキン。
ここはシェアハウス。築100年近い長屋を改修して住んでいる。隙間風は通るし、暖房はない。そんなところに、恋人のいない握る手のなかった者たちは鳥の足を握るため、お互いを牽制し合う。
「あいこでショ!」
「よっしゃー! いただきまーす」
謙也はパーの手のままチキンに手を伸ばす。負けた者たちは負けた手のまま、太ももを叩き悔しがる。
「謙也ずりーなー。何本目だよっ」
「えへへ、5本目♪」
「ちょおめーが一本多く食べてたんかい。譲ってくれた理恵ちゃんに謝れー」
チキンは16本。みんな平等に食べれば、一人4本ずつあった。理恵は2本食べて
「ドリアでお腹いっぱいだから、残りあげるよ」
と言った。皿の上には2本残るはずだった。3人いた男たちは、包丁で切り分け、みんなでちょっとずつ食べようと話していた。しかし一本しかない。そこでチキン争奪戦になったのだ。

「理恵ちゃんごめん、隠れて一本多く食べてました」
謙也は机に頭を下げる。
「いいよいいよ、謙也食べるの好きだもんね」
「いや、申し訳ない。お詫びにこれクリスマスプレゼント」
謙也はナフキンで手を拭き、机の下からキラキラのデコレーションがされた袋を取り出した。
「おい! 抜け駆けはなしだろ! 理恵ちゃんへ俺からもこれ、どーぞ」
と聡も背中からプレゼントを登場させる。
「理恵これ」それまで静かだったノリも高級ブランドのロゴが印刷された紙袋を渡す。
「ノリさん豪華っすね」
理恵は目を丸くし、頬をほのかに赤らめ、くしゃっと笑う。
「ありがとう、みんな。これ私からもささやかだけど」
とラッピングされたクッキーをみんなに配る。謙也は早速リボンを解き、クッキーを頬張る。
「おいしー理恵ちゃんこれうまいよ!」
「お前はいつもはえーな! もっと丁寧にできないのかよ。お、美味しい、ありがとう。理恵ちゃん」
「お前ら慌てすぎだよ」
二人のやり取りを、笑ってみていたノリが言う。ノリと目を合わせて理恵も笑う。
机の下で理恵は握っていたノリの手をさらに強く掴んだ。
文/著者 プロフィール
