暮らしを豊かにする家族写真【1】
家族は最高の被写体

はじめまして。カメラマンの花田友歌と申します。これから「暮らしを豊かにする家族写真」というタイトルでコラムを書かせていただくことになりました。
写真が暮らしを豊かにする、という感覚は、写真を撮ることが好きな人にとってはおそらくすんなり受け入れられるものだと思います。ですが、写真の楽しみは、撮るだけでなく、そして撮る以上に、出来上がったものを見るところにあります。そしてその特徴が特に生きるのが、家族写真だと考えています。
このコラムではそのような考えのもと、撮る人も見る人も、写真を通じて家族の暮らしが豊かになるような、そんな楽しみ方の提案をしていけたらと思っています。
さて、記念すべき第1回は、私自身が写真の世界に本格的に足を踏み入れることになった決定的な出来事について書きたいと思います。
私は元々会社員で、写真とは一切関係のない仕事をしていました(今も会社員ですが育児休職中です)。写真を撮ることは学生の頃から好きで、高校生の時に初めてコンパクトなフィルムカメラを親に頼んで買ってもらい、学校行事のスナップ写真や旅先の風景などを撮っていました。大学生になってコンパクトデジカメが主流になり、社会人になってデジタル一眼レフを購入して・・・と、その時々で機材を持ち替えては細々と撮り続け、小さなフォトコンテストで入賞したこともありましたが、あくまで趣味のひとつにすぎず、またずっと独学でした。
転機となったのは、結婚した翌年に長男を出産したことでした。
それまで私が写真に撮っていたのは家の周りや旅先の風景や草花、建築物などでした。なんとなく素敵、綺麗、面白い、と思ったものになんとなくカメラを向けてシャッターを切っていただけで、 撮りたい対象やイメージが具体的にあったわけではありません。
ところが、自分にこどもが生まれてみたら、これが可愛くて可愛くて!私は特別こども好きだったわけではありませんし、妊娠していた10ヶ月の間も、どちらかと言えば冷静にドライに”その日”を待っていたように思います。それなのにいざ生まれてきたら、どうしたことでしょう、我が子がまさに世界一可愛く見えるのです。それと同時に「この子をきちんと写真に撮らなくては」という気持ちがむくむくと湧いてきました。自分にとっての特別な被写体として、彼が圧倒的な存在感を放つようになったのです。それで、初めてプロの開く写真レッスンに足を運んだのでした。そこから私自身がプロになるまでに至った経緯はここでは省略しますが、ともかく、自分のこどもが生まれたことによって、写真は私にとって単なる趣味のひとつから、ライフワークへと昇華したのです。

「撮りたいと思う被写体との出会いが大切だ」というのは、写真を生業にしている多くの人が異口同音に言っていることです。中でも家族は多くの写真家にとってとても重要な被写体のようです。
家族を被写体にした作品を多く発表している浅田政志さんが、こんなことをおっしゃっています。
「僕の中で家族というのは、いい面も悪い面も含んだ球体というイメージがあります。どこから眺めるかによって見えるものは違ってくるというか。(中略)『こういう見方もできますよ』と写真で表現できればいいなと思う」
「写真を撮ることはこれだけ広まっているのに、家族写真を撮る機会はむしろ減っているんじゃないですか。写真の原点は、家族写真でありポートレートのはずです。一生に一枚しか写真を撮れないとしたら、かなり多くの人が家族を被写体にするでしょう」*
もしも、写真を撮るのは好きだけれど家族のことはこれまであまり撮ってこなかった、という方がいたら、ぜひ一度、ご自身の家族の写真を撮ってみてください。また、これから写真を始めたいと考えている方にとっても、最初に撮る被写体として家族はおすすめです。今まで気づかなかった家族の新たな表情を発見できるかもしれませんよ。
写真と文:花田友歌(はなだフォトワークス すみだ 代表)
hanadaphoto-sumida.com
* 「写真のプロフェッショナル」山内宏泰