すみだの農園

子供たちが直接自然に触れる機会がますます減っている現在、「畑づくりを通して、食育や世代を超えたコミュニケーション、家族そして地域のつながりを育みたい。」そんな思いが結集して、都心部では貴重な農園を生み出しました。
墨田区で初めて「市民緑地」にも認定された『たもんじ交流農園』。その誕生の物語とそこで行われているプロジェクトやイベントをご紹介します。
たもんじ交流農園
誕生のきっかけ
始まりは、「寺島なす」。
それは、普通のナスより小ぶりで、皮は厚め。香りが強く、熱を加えることで、実がトロトロになるという独特の美味しさがあり、かつては、旧寺島地区(現東向島・墨田)で盛んに栽培されていました。
しかし、関東大震災後、復興と共に宅地化が進み農地が減少するとともに、いつしか幻と化してしまいました。
今から十年前、その失われたと思われていた「寺島なす」の種が90年ぶりに見つかるという大発見がありました。
これをきっかけに北十間川より墨田区北部を活動拠点に「まちづくり」をするNPO法人、「寺島・玉ノ井まちづくり協議会」(以下「てらたま」)は、「寺島なす復活プロジェクト」を立ち上げ、墨田区の江戸野菜である「寺島なす」を地域のコンテンツにしてまちづくりをするために動き出しました。
まず始めに、第一寺島小学校130周年事業の一環として小学生の手によって地元で初めて「寺島なす」がプランター栽培されました。


その後「てらたま」は、先ずは「寺島なす」を知らない地域住民に知ってもらう目的で、東向島駅につながる通り沿いのプランターで「寺島なす」の展示栽培を始めました。
こうした「てらたま」の活動は地域にも広まっていき、自然発生的に地元の人たちから「自分たちで育てたい」という声が聞かれるようになり、その話をたまたま耳にした、多聞寺の住職や奥様が、「地域のためになるのなら」と寺の裏の駐車場200坪を無償で貸していただけることになりました。
この土地を本格的な農地として開墾し、市民に開けた農園を創りたい。人と人のふれあいが生まれる場にしていきたい。様々交流や実践教育の場としても活用したい!
そんな想いを基に始めた「まちなか農園プロジェクト」で創設されたのが『たもんじ交流農園』です。
砂利の駐車場を自分たちの力で農地に変えるため、この活動に賛同した人々が、週末に集まりユンボを借りて掘り起こしたりして耕作地を作り始めたのが2017年。

ウッドデッキを組み立て、芝生を張り、ビオトープも作り、ついに2018年4月、4区画分で農園初の栽培が始まりました。
「寺島なす」を始め、様々な野菜を栽培しながら、残りの土地を耕し、2019年ついに全面開園。
全24区画中、4区画は共用耕作地として「てらたま」は借り受けて、残りは個人に貸し出していますが、今は一杯で、空きが出たら抽選になります。
毎年、夏と秋には収穫祭、その他にも頻繁にイベントが行われ、まさに子供たちに農体験を通した食育と世代を超えた地域住民の交流の場となっています。


すみだを里山に!
「すみ里プロジェクト」

「まちなか農園プロジェクト」から生まれた「たもんじ交流農園」は、年間を通して様々なイベントを行い、農園を通じて人々の交流が広がり、自然とのふれあいが生まれています。
そんな場所をもっと増やしたいと「てらたま」が次に立ち上げたのが「すみ里プロジェクト」。
「里山というと、山がないといけないと思うかもしれませんが、里山=人の手が加わった自然ということで、もっと「まちなか農園」を増やして、すみだを里山にしたい。というのが「すみ里プロジェクト」です。」と語ってくれたのは「てらたま」理事長の牛久さん。
プロジェクトはすでに進行中で、曳舟駅徒歩1分にある「ノウドひきふね」では、「ノウド園芸部」を立ち上げ、施設正面の空きスペースを利用して小さな農園を作る計画です。
「廃材使って木枠組んで、レイズドベッドをつくって野菜やハーブを栽培できればと思っています。」
レイズドベッドとは、直訳すると「上げられた花壇」で、木の板などで土留めを立て、植栽スペースをつくったもののことで、もちろん野菜も育てられます。
また、押上のわんぱく天国でも、公園の一画が園芸スペースとして活用されています。

「寺島・玉ノ井 まちづくり協議会(てらたま)」
牛久光次理事長
こうした活動が広まり、ちょっとした空き地が農地として生まれ変わったり、地域が連携して路地で野菜を育てるエディブルウェイ(食べられる道)が実現するかもしれません。そして、「すみ里プロジェクト」の目標のひとつが、江戸時代に隅田川の東岸の木母寺に隣接するところに設けられた御前栽畑(将軍が食べる野菜を栽培する畑)の復活です。

歌川広重の浮世絵「名所江戸百景 木母寺内川御前栽畑」にも描かれた肥沃な土地は、さらに100年後どんな姿になっているのでしょう。
焦らず、でも着実に墨田区の里山化を進める「てらたま」のプロジェクトを見守って行きたいと思います。
たもんじ交流農園
墨田区墨田5-30-19
【お問い合わせ】
TEL:080-3421-3115(NPO法人 寺島・玉ノ井まちづくり協議会/小川剛)
いつでも開園中
ほぼ毎週日曜午前中は、コミュニティ活動をしています。
お気軽にお越しください。
たもんじ交流農園
利用者の声
岩脇さんの農園

4年前から「すみだ青空市ヤッチャバ」の事務局員をしている岩脇さんの区画。
農家の方と接することが増え、農業について学びたいと思ったのが、たもんじ交流農園を訪れたきっかけ。
作物が病気になったりして落ち込んだり、夏場は蚊に刺されまくったり、2日に一度、朝4時起きで水やりに来たりと、農業の大変さを学びつつも、「市販の野菜では味わえない獲れたての美味しさに、子供たちも収穫を楽しみにしてくれています。」という岩脇さん。
今栽培中の玉ねぎとニンニクを収穫したら一度土を耕すので、タイムラグをなくすため、自宅で次に植える苗を着々と準備中!
「今後はキュウリ・落花生・バターナッツ・かぼちゃ・里芋・スイカ・長芋・ごぼうなど、色々と挑戦したいです。」と笑顔で意気込みを語ってくれました。

大松さん・山口さんの農園

それぞれ3人のお子様がいらっしゃるという2家族が共同で借りている区画。
今年で2年目ということで、じゃがいも・トマト・イチゴ・大葉・バジル等盛りだくさんの畑です。
今は、週に2・3回ほどですが、夏の間は毎日水やりに来るそうで、「以前、カボチャとスイカを栽培した時は、朝7時までに受粉させないといけなかったり大変でしたが、子供たちにとっては、勉強になったと思います。」という大松さん。
子供たちの成長も楽しみですね!

あゆみの舎(いえ)の農園

墨田三丁目にある(労)労協センター事業団 玉ノ井プラザ「あゆみの舎(いえ)」で借りている区画。
今年は、全面寺島なすを栽培中。寺島なすは毎日水やりが必要なので、職員だけでは手が足りない場合は、ワーカーズコープの方や診断士の方々の手を借りて維持しているそう。「土づくりや雑草取りは腰が痛くて大変だけど、沢山できたら利用者の方に食べてほしいです。」と渋沢さん。
9月〜10月の収穫が楽しみです!
