コンテンツへスキップ ナビゲーションに移動
墨田区の地域密着情報サイト「すみだノート」
  • ホーム
  • 特集
  • イベント
  • すみだ物語
    • 街のものがたり
    • 人のものがたり
    • 暮らしのものがたり
    • 読みものがたり
    • 鉄道ものがたり
  • お店・会社
    • グルメ
    • 学ぶ
    • 美容・健康
    • 暮らし・生活
    • 趣味・娯楽
    • 住宅
    • 病院・医療
    • 会社
  • スケッチ
    • 新着情報
    • お知らせ
    • すみだの想い出
    • 健康レシピ
    • すみだの映画
    • すみだの演劇
    • すみだのペットちゃん
    • はやし小説【文庫】
    • チヒロちゃん【文庫】
    • 男を上げるお洒落学
    • 表紙ギャラリー
    • フリーペーパー既刊号
  • ノート
    • すみだノートのあるお店・施設
    • すみだノート スポット
    • すみだノートについて
    • 広告掲載
    • スタッフ紹介
    • スタッフブログ
    • 運営会社
    • お問い合せ
    • お店・会社情報の掲載お申し込み
    • プライバシーポリシー
すみだ物語
  1. ホーム
  2. すみだ物語
  3. 鉄道ものがたり
  4. 【新連載】隅田河鉄道 第一話

【新連載】隅田河鉄道 第一話

2026年8月21日 最終更新日時 : 2026年8月21日 及川博勝

作:及川博勝

「星の名前」

 森川恒一が押上に引っ越してきたのは、8月のはじめだった。

 大学を卒業して五か月。就職はしなかった。正確に言えば、就職活動を途中でやめた。スーツを着て、同じようなビルに入り、同じような質問に答えるたびに、自分がだんだん薄くなっていくような気がしたからだ。

 フリーライターになりたい。
 夢を追っている。と言えば様になるが、ファッションとして着飾っている「夢」という言葉といったところか。

 実際にはまだ一本の原稿も書いていない。名刺もない。仕事のあてもない。あるわけがない。
 あるのは、学生時代に集めた古い鉄道雑誌と、昭和の町並みを特集した本が数冊。それから、親に言えない程度の不安だった。

 恒一は千葉のベッドタウンで生まれ育った。駅前には大きなスーパーがあり、ロータリーには同じ形のバスが並び、どこまで行っても新しいマンションと駐車場が続いていた。便利ではあった。けれど、そこには何かが足りなかった。

 子どものころから、古い駅舎や短いホーム、踏切のある風景が好きだった。特別に詳しいわけではない。車両の形式を全部言えるほどではないし、時刻表を暗記するような熱心さもなかった。ただ、短い編成の電車が町のすき間を抜けていく光景を見ると、胸の奥が少しだけざわついた。

 昭和の下町で暮らしてみたい。

 その思いつきだけで、恒一は墨田区を選んだ。

 不動産屋に案内された古川荘は、押上の住宅街にある木造2階建ての古いアパートだった。外壁はところどころ色が褪せ、階段は上るたびに小さく鳴った。部屋は2階の奥、六畳一間。台所は狭く、風呂は小さく、エアコンは少し頼りなかった。

 けれど、窓を開けると、すぐ近くを東武亀戸線が走っていた。

 内見の最中、踏切が鳴った。

 カンカンカンカン。

 しばらくして、銀色の車体が、2両編成でガタンゴトンと音を立てて通り過ぎた。窓ガラスがわずかに震えた。不動産屋の男は申し訳なさそうに言った。

「音、けっこうしますよ。気になる方は気になります」

 恒一は窓の外を見たまま答えた。

「ここにします」

 男は少し驚いた顔をした。

「本当に大丈夫ですか」

「大丈夫です。むしろ、いいです」

 その一言で、古川荘二〇三号室は恒一の部屋になった。

 引っ越してきてから一週間、恒一は思っていたより何もしていなかった。朝起きて、コンビニでパンを買い、部屋でスマホを眺める。求人サイトを開いては閉じ、ライター募集の記事を読んでは、自分にはまだ早い気がして画面を伏せる。夕方になると近所を歩いた。

 押上は、恒一が想像していた下町とは少し違っていた。

 もっと古い長屋が連なり、軒先には植木鉢が並び、路地の奥から煮物の匂いがしてくるような町を想像していた。けれど実際には、新しい建売住宅も多く、駅前にはチェーン店があり、観光客はみな「あの大きな塔」を目指して歩いていた。

 それでも、角を曲がると急に古い家が残っていたり、錆びた看板のある店が眠っていたりした。新しいものと古いものが、整理されないまま同じ道に並んでいる。そのちぐはぐさが、恒一には少し面白かった。

 ある日の夕方、恒一は「あの大きな塔」を見に行くことにした。

 正直に言えば、興味はなかった。けれど、押上に住み始めた以上、一度くらいは真下から見上げておくべきだろうと思った。

 夏の空はまだ明るかった。昼間の太陽がアスファルトに残り、歩くたびに足元からぬるい空気が上がってくる。路地を抜けると、突然、視界の上半分を塔が占めた。

 恒一は立ち止まった。

 大きい、というより、近すぎた。

 写真で見ていたときは、ただの観光名所だった。けれど真下に立つと、それは町の一部というより、空から突き刺さった巨大な針のようだった。昭和の下町を探しに来たはずなのに、その町の真ん中には、未来みたいな塔が立っている。

「なんだこれ」

 小さくつぶやいて、恒一は笑った。

 そのまま歩いて、北十間川のそばまで出た。水面には夕方の光が揺れ、「あの大きな塔」の影が長く伸びていた。観光客の声が少し遠のき、川沿いのベンチには、誰かが残していった紙コップが置かれていた。

 恒一はベンチに腰を下ろした。

星の名前

 風が少しだけ涼しかった。

 スマホを取り出し、なんとなく検索窓に文字を打った。

「墨田 歴史」

 検索結果には、隅田川のこと、向島のこと、業平のこと、寺島という古い地名のことが並んでいた。読み進めるうちに、恒一は自分がまだこの町のことを何も知らないのだと気づいた。

 墨田区。

 名前は知っている。「あの大きな塔」がある場所。下町。花火。相撲。町工場。そんな雑な言葉をいくつか持っているだけだった。

 さらに検索していると、ふいに妙な文字が目に入った。

 小惑星(1090)スミダ。

 恒一は指を止めた。

「スミダ?」

 画面を開く。
そこには、宇宙にある小惑星のひとつに「スミダ」という名前が付けられていると書かれていた。
その名前は、東京を流れる隅田川にちなんで付けられたものだった。
スミダという名前が地上だけでなく、空のどこかにも存在しているらしい。

 恒一は顔を上げた。

 目の前には北十間川。背後には観光客のざわめき。頭上には「あの大きな塔」。そして、そのさらに向こうに、まだ見えない星がある。

 スミダという名前の星。

 それは妙に不思議だった。

 この町に引っ越してきた理由は、半分以上が勢いだった。昭和っぽい下町に住めば、何か書けるようになる気がした。古いアパートに住めば、自分も少しは物語の中の人間になれる気がした。

 けれど、町は思ったより新しく、思ったより普通で、思ったより大きかった。

 それなのに今、スマホの小さな画面の中で、スミダは宇宙まで伸びていた。

「変なの」

 恒一はそう言った。

 でも、画面を閉じることができなかった。

 日が傾くにつれ、川面の色が青から灰色に変わっていった。「あの大きな塔」に灯りがともり、塔は少しずつ現実離れしていく。恒一はしばらく、小惑星スミダについて書かれた短い説明を読み返していた。

 あの星まで行けたなら。

 そんなことを一瞬考えて、すぐにばかばかしくなった。

 腹が鳴った。

 恒一はベンチから立ち上がり、古川荘へ戻った。

 夜になると、部屋は思っていたより静かだった。

 古い木造アパートだから、隣室の物音は聞こえる。誰かが階段を上れば、きしむ音がする。けれど、町全体は夜になると急に息をひそめる。昼間あれほど大きく見えた「あの大きな塔」も、窓の端に少しだけ光っているだけだった。

 恒一は畳の上に寝転がり、扇風機の首振りを眺めていた。エアコンはつけていたが効きが悪く、部屋にはぬるい風が回っていた。

 スマホには、さっき開いた小惑星の記事が残っていた。

 小惑星スミダ。

 何度見ても、少しおかしい。地名が空に浮かんでいる。それだけのことなのに、胸のどこかに小さな引っかかりが残っていた。

 そのとき、踏切が鳴った。

 カンカンカンカン。

 恒一は画面を見たまま、視線だけを窓の方へ動かした。

「亀戸線が通過いたしまぁす」

 もう慣れた音だった。

 少しして、電車が通過した。

 ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 二両編成の短い音が、部屋のすぐ外を横切っていく。窓ガラスが小さく震え、吊るしていたシャツがわずかに揺れた。音はすぐに遠ざかり、踏切の警報音も止まった。

 静かになった。

 扇風機の音だけが残った。

 そのはずだった。

 遠くで、何かが鳴った。

 ポォーーーーーッ。

 恒一は起き上がった。

 今のは、電車の警笛ではなかった。

 もっと低く、長く、湿った音だった。夜の空気を押し広げるような、古い映画の中で聞くような音。

「汽笛?」

 口に出してから、自分で変だと思った。

 東京の、しかも押上で、蒸気機関車の汽笛が聞こえるはずがない。

 恒一は窓を開けた。

 外は暗かった。亀戸線の線路はいつもの場所にあり、踏切の赤い灯りは消えている。遠くに「あの大きな塔」が見えた。その根元の方角、業平のあたりから、夜の風が流れてくる。

 もう一度、鳴った。

 ポォーーーーーッ。

 今度はさっきより、少し近く感じた。

 恒一の背中に、ぞわりとしたものが走った。

 耳をすませる。

 ガタン、ゴトン。

 ガタン、ゴトン。

 線路の継ぎ目を重い車輪が踏むような音が、遠くから近づいてくる。亀戸線とは違う。二両編成の軽い音ではない。もっと重く、もっと古い。鉄と鉄が、夜の底でゆっくり噛み合うような音だった。

 そのとき、風に混じって、かすかな匂いがした。

 焦げたような、煙たいような匂い。

 恒一は息を止めた。

 石炭。

 そう思った瞬間、胸の奥で何かが小さく跳ねた。

 あり得ない。

 あり得ないのに、確かに聞こえる。

 業平の方から、蒸気機関車の汽笛が聞こえる。

 恒一は窓枠に手をかけたまま、暗い町を見つめていた。

 昼間、北十間川のベンチで見つけた言葉が、頭の中に浮かんだ。

 小惑星スミダ。

 空にある、墨田の名前。

 もう一度、遠くで汽笛が鳴った。

 ポォーーーーーッ。

 それはまるで、まだ知らない駅から届いた、夜行列車の合図のようだった。

おすすめ記事

中村誠一ジャズライブ in すみだ

中村誠一ジャズライブ in すみだ

2020年3月13日

身近なまちの魅力を再発見!多文化交流で巡る浅草・すみだ

身近なまちの魅力を再発見!多文化交流で巡る浅草・すみだ

2022年2月10日

1000系

東武亀戸線に、未来がやってくる。

2026年4月2日

講談師 田辺一乃さん

すみだには「したたかさ」というポテンシャルがある

2018年12月30日

大学のあるまち すみだ キャンパスコモンオープニングセレモニー

大学のあるまち すみだ キャンパスコモンオープニングセレモニー

2023年3月17日

すみだモダン2017ブランド認証

すみだモダン2017ブランド認証

2018年3月17日

すみだ物語
鉄道ものがたり
著者
及川博勝
鉄道カテゴリ
隅田河鉄道
前の記事
荒川駅、最後の日。八広駅、最初の日。
2026年8月7日

すみだ物語

  • 街のものがたり
  • 人のものがたり
  • 暮らしのものがたり
  • 読みものがたり
  • 鉄道ものがたり

お店カテゴリー

  • グルメ
  • 学ぶ
  • 美容・健康
  • 暮らし・生活
  • 趣味・娯楽
  • 住宅
  • 病院・医療
  • 会社
「すみだノート」があるお店・施設
すみだノートへの広告掲載

詳細はこちら

すみだノート

私たちの街をもっと好きになる
情報サイト

アイコンリンク
アイコンリンク
アイコンリンク
アイコンリンク
アイコンリンク
お店を無料掲載します

お申込みフォームはこちら

もしも、2000年代に
すみだノートがあったら

【 すみだノートClassic 】

  • ホーム
  • 特集
  • イベント
  • すみだ物語
    • ├ 街のものがたり
    • ├ 人のものがたり
    • ├ 暮らしのものがたり
    • ├ 読みものがたり
    • └ 鉄道ものがたり
  • お店・会社
  • 新着情報
  • お知らせ
  • すみだの想い出
  • 健康レシピ
  • すみだの映画
  • すみだの演劇
  • すみだのペットちゃん
  • はやし小説【文庫】
  • チヒロちゃん【文庫】
  • すみだノートのあるお店・施設
  • すみだノート スポット
  • すみだノートについて
  • 広告掲載
  • スタッフ紹介
  • スタッフブログ
  • 運営会社
  • お問い合せ
  • お店・会社情報の掲載お申し込み

すみだノート © 2017-2026 SUNNY PASTEL LLC

MENU
新着情報
イベント情報
お知らせ
すみだ物語

  • ホーム
  • 特集
  • イベント
  • すみだ物語
  •  ├ 街のものがたり
  •  ├ 人のものがたり
  •  ├ 暮らしのものがたり
  •  ├ 読みものがたり
  •  └ 鉄道ものがたり
  • お店・会社
  •  グルメ
  •  学ぶ
  •  美容・健康
  •  くらし・生活
  •  趣味・娯楽
  •  住宅
  •  病院・医療
  •  会社
  • すみだスケッチ
  •  ├ 新着情報
  •  ├ お知らせ
  •  ├ すみだの想い出
  •  ├ 健康レシピ
  •  ├ すみだの映画
  •  ├ すみだの演劇
  •  ├ すみだのペットちゃん
  •  ├ はやし小説【文庫】
  •  ├ チヒロちゃん【文庫】
  •  ├ 男を上げるお洒落学
  •  ├ 表紙ギャラリー
  •  └ フリーペーパー既刊号
  • すみだノート
  •  ├ すみだノートのあるお店・施設
  •  ├ すみだノート スポット
  •  ├ すみだノートについて
  •  ├ 広告の掲載について
  •  ├ スタッフ紹介
  •  ├ スタッフブログ
  •  ├ 運営会社
  •  ├ お問い合せ
  •  ├ お店・会社情報の掲載お申し込み
  •  └ プライバシーポリシー
  • ホーム
  • 新着
  • イベント
  • お店情報
トップへ戻る