続・よみがえる墨東長屋
2018年の夏。
すみだノート創刊号で特集された「よみがえる墨東長屋」。かつての風情を色濃く残す京島周辺の長屋に焦点を当てた内容でした。
あれから6年、時代の流れと共に変化を遂げた、京島周辺の長屋の現状についてお聞きしました。
〈対談〉
続・よみがえる墨東長屋
後藤 大輝
ごとう だいき
2020年に初めて「すみだ向島EXPO」を開催
その後100年、1000年先の土地建物・
長屋文化を継承するため
八島花文化財団を立ち上げた。
暇と梅爺株式会社・代表取締役
すみだ向島EXPO実行委員会・委員長
一般財団法人 八島花文化財団 代表理事
及川 博勝
おいかわ ひろかつ
すみだノート代表
京島でSUNNY PASTEL合同会社を設立
すみだストリートジャズ
フェスティバル in 曳舟
SSJF曳舟まちかど実行委員会 事務局長
京島3丁目の駄菓子屋「かってぐち」店主
すみだファンCLUBメンバー会員NO.7
長屋
すみだノートもお陰様で6周年を迎えました。創刊号の特集「よみがえる墨東長屋」をはじめ、その後も何度かご登場いただいている後藤さんですが、6年たった今、京島エリアの長屋の現状はどんな感じですか?
長屋という建物でいうと、6年前に紹介いただいたリノベーションされた新しい店舗などの数が、今までの店舗や拠点の人たちの口コミや人伝手から新しい長屋拠点が増えています。
紹介を仕切れないですが、古くからの商店が世代交代で無くなるなか、長屋建物では素敵な花・植物店舗が3箇所も増えたり、サードプレイス的なカフェはもちろんですが、美術ギャラリーとなっている長屋スペースも5箇所もあります。どの店舗も、長屋が持っている歴史や佇まいがあるから、そこを選んだと思います。特に京島の長屋エリアは戦後焼け残ったことで、東京随一の長屋地域として戦後80年程かけて新陳代謝を繰り返しながらも現在も百軒以上が京島地域内に現存しています。
墨田区北東部も含めれば、かなりの数となり、今でも東京随一の「東京長屋」歴史文化地区とも言えると思います。
しかし、最も戦前の長屋が多く残る京島エリアであっても近年、世代交代が如実に起きていて、長く住んできた人が亡くなったり、引退して家を手放す人が増え、それを買おうとするハウスメーカーやデベロッパーの建売が多く目立つ現状です。
何とかこの長屋文化をハード面とソフト面の両面から継承したいという思いもあり、大勢の協力をいただき昨年「八島花(やつしまはな)文化財団」を立ち上げることができました。
何世代にも渡って培われてきた気質や下町のコミュニティがつくりだす特有の雰囲気や文化といったものは、すぐには失われないかも知れませんが、町の変容によっては外から見えなくなってしまうでしょう。
関東大震災や東京大空襲を奇跡的に食い止めたことで、現代にも実際に出会い、触れ合えるリアルな歴史文化地区とも言えるこのエリアをどこにでもある住宅街にするのではなく、耐震防災の課題をクリアしつつ、次の世代にとっての最善は何かを見つめながら、地域の魅力を世代を超えて対話をしながらより多くの人と想像していきたいです。
八島花文化財団といえば、財団が主催し、後藤さんが実行委員長も務める「すみだ向島EXPO」がありますが、こちらも長屋文化を残すための試みのひとつということですよね。
そもそも、僕がこの町とかかわりを深めるきっかけは、京島に残る古い長屋や町工場、狭い路地やそこで暮らす人たちを映像作品として残したいと思ったからです。実際に暮らしはじめて十数年、さらにその思いは強くなっています。
今では、映像制作ではなく長屋文化を継承するための仕組み作りに奔走していますが、その過程で、2020年に「すみだ向島EXPO」をスタートさせました。これは、地域にある土地や建物を会場にしながら、様々なアーティストの展示や企画を1ヶ月間にたわって行う街中博覧会ですが、過去に行われた「向島国際デザインワークショップ1998」や「向島博覧会」などの、地域×文化芸術プロジェクトの流れを引き継いでいます。
今年で第5回【10月5日(土)~11月3日(日)開催予定】になりますが、空き物件を使用したアーティストが会期後もお店として利用したり、その展示を見た人が新しく長屋や近隣の建物に住み始める人もいます。
年数を重ねるごとに、有志の実行委員メンバーも増えてくれて関係者からの口コミをベースにしながらも、国外の友人たちとも地域交流がはじまり昨年は、台湾、インドネシア、フランス、リトアニア、ウクライナなどの国外参加のアーティストや、埼玉、蔵王、尾道、神戸、熱海といった県を跨いで繋がる人たちとも地域特有の課題に共感しあい文化芸術活動だけでなく地域に残る歴史的な建物や街並み、地域文化についてのこれからを共に考える連携関係が生まれてもいます。
我々すみだノート編集部も、後藤さんと知り合い、長屋の保存活動を知ったことで、この京島3丁目にある昭和初期の建物を無くしたくないという強い思いから一軒借り、セルフリノベーションをして編集部事務所兼貸しスペースとして利用しています。
今は小さな裏庭(勝手口)を、架空列車の無人駅風にしたり、売店として駄菓子屋「かってぐち」をオープンしたりしています。こういった活動は、地域の方々の理解が無ければ成り立たないと思うのですが、実際のところどうですか?
お陰様で2020年に始めた「すみだ向島EXPO」も、毎年開催することができ、今までやってきた取り組みや長屋に関する働きがネットワーク的に存在感を増してきたのは事実です。しかしそのEXPOによって地域の中から潜在的にあったネガティブな感情が同時に出てきたというのもまた事実です。
EXPOの展示やイベントの企画は毎年100コンテンツくらいになり、理解されやすいものから、理解しにくいものまで様々です。閉鎖的にしないことで、様々な人たちの表現を街中から博覧できる方法をとっていることもあり、近隣地域の方に不安を与えてしまう表現もあります。会場周辺には、挨拶周りや企画説明をすることで理解して応援してくれる方も増えてきていますが、まだまだ努力して地域理解には努めて行かなければと思っています。
そんな思いからも、昨年一年かけて大学の研究室、古い建物の専門家など、現状の長屋について様々な角度からリサーチを行いました。日々移り変わっていく東京という都会のなかで、奇跡的に残った長屋とその町並みという『ハード面』と、長屋という形態を保ちつつも改変され続け、その中で生活することで醸成され、連綿と受け継がれてきた長屋文化という『ソフト面』。
そういったものに本当に価値があるのか?そして価値あるものなら、安全面ではどういったガイドラインを設けるのか、資金面では維持していくためにどのような方法があるのか等、例えば歴史的街並みを再生継承している他地域の事例を金沢や大阪、京都ではどうなっているのか現地視察も行い、例えば『京町家』のような「認定」「カルテ」「ローン」といったものを参考にした『東京長屋』モデルを作ることができるのか、徹底的に調べました。
他地域に見られる登録有形文化財としての価値が京島の長屋にもあることがわかったこともあり、その価値を継承していくための正しいステップを協議していくタイミングにあると考えています。
今年は『合意形成』の年です。昨年のリサーチ素材を元に、長屋とその文化の価値、課題を可視化することで、みんなで理解し合うきっかけをつくり、そういった対話の場を設けることで、長年の問題を解きほぐす新たな指針が見えてくるのではと考えています。
墨東長屋 2024
従来の長屋を現代感覚でリノベーションした長屋や新たに建てられた長屋など、墨東エリアに現存する長屋をご紹介。
資料提供:すみだ向島EXPO実行委員会
- 爬虫類館分館 -
住所:墨田区京島3-17-7
キラキラ橘商店街明治通り角にある二軒長屋で、戦前築でいくつのもの商店となってきた。2010年春に「爬虫類館分館」となったこの建物は、シェアカフェ分館から昨年末に、シェアリビング「うちらの居間 分館」として運営させている。一階西側は、オーガニックでナチュラル製法のワイン専門店「アペロ・ワインショップ」です。
- 六軒長屋 -
住所:墨田区京島3-20-9
江戸時代の出桁造りを継承した立派な表長屋。右端の歯医者は見本のような看板建築で、あたかもコンクリート造のように見える。左端のYOMOCKと呼ばれる建物では、一階がSandwich and Oden 「三/十」です。
- 七軒長屋 -
住所:墨田区京島3-13-5
昭和初期に立てられたこの長屋は、準備中の店舗きまま、クラフトワーク京島、オープンしたばかりの革ブランド「totokoko」、ボードゲームのミリオンパーセント、海外アーティストが集まるUNTITLED SPECEと個々の店主がリノベーションした異質が連なる代名詞的長屋。
- 商店看板長屋 -
住所:墨田区京島3-20-5
キラキラ橘商店街の商店看板が残る長屋建築。元床屋のバーバーアラキは貸しギャラリー「BBA」に、元紅月ふとん店は、今年の5月に画家・海野貴彦さんによるアート&器のセレクトショップ海野貴彦商店「NANZO」として開店している。
- 四軒長屋 -
住所:墨田区京島3-50-9
大正末期の四軒長屋には左からレンタル工房・京島共同木工所、2階は林菜穂アトリエ。2軒目・ウチダリナアトリエ。3軒目・シルクスクリーンsampo。4軒目は高橋夫妻が育む名物軒下園芸コーナー。
- 三軒長屋旧邸/旧邸稽古場 -
住所:墨田区八広2-45-9
明治通りの八広側に並ぶ、戦後すぐの長屋建築。戦前の長屋より間口は広く奥行きもあり、特にこの長屋は、奥に平屋や中庭など、八広という地域の複雑性とシンクロする造りとなっている。横並びで続く旧邸稽古場も同じ時代に同じ大家さんが建てたもの。一階表通りは、八広食堂、となり製作所、花屋 L'eau et le Soleilと三店が並ぶ。
- 明治通り裏長屋 -
住所:墨田区京島3-57-9
平屋別館/ものはいいよう➕/ウラダナ
表通りの長屋に対して、裏長屋と言われた平屋の長屋群。半分切り残った角の平屋は旅館「平屋別館」。並んで平屋長屋に林光太郎店主の本屋「ものはいいよう+」。裏長屋=ウラダナと名付けられた貸しギャラリーは角田晴美さんの運営スペース。
- 四あず長屋 -
住所:墨田区京島3-64-10
京島の第四吾嬬小学校の裏門沿いの長屋通りの一箇所。中右の「京島共同凸工所」は、ラボ長の淺野義弘さんとお店の看板を作ったり、自分だけのおもちゃを発明したりと、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル機材を利用できるファブラボ。右端は「睡蓮の家」というアーティストinレジデンススペース。
- 踏切長屋 -
住所:墨田区文花3-2-1
東武亀戸線の踏切に接する戦前の長屋。改修プロジェクトは都市計画コンサル企業ランドブレインの地域活性事業として発足。2階ルームシェア住居に通じる一階は貸し本棚「カンカンバコヤ」として開店。一階左には、スペシャルティコーヒーと自家製あんこのたいやきの「off COFFEE.」が開店している。
- 新築けん玉横丁長屋 -
住所:墨田区京島3-48-5
2023年(令和5年)の5月に完成した新築長屋。昭和初期の長屋作りを継承しつつも、現代の耐震耐火性能を備えた最新と伝統の融合とも言える長屋。オーナーの紙田和代さんの長年の想いを詰め込んだここは、一階をシェアキッチン&コワーキングスペース。2階は二つの賃貸住居として新しい住人が暮らしている。
- 三角長屋 -
住所:墨田区京島3-48-3
三角屋根が異国情緒を放つ四軒長屋。真ん中の二軒がサテライトキッチンとウィヴァネストペンギンの店舗で、店内の壁を抜けて行き来できる連動したお店でもある。すみだ向島EXPOの会期には、夕方6時の時報を告げる「夕刻のヴァイオリン弾き」が窓際に現れる。人々が語り継ぐ、その時報は街に浮かび上がる夢のような事象となっている。
- 文花会館 -
住所:墨田区文花3-7-1
大正モダンの長屋建築。角地に面した正面には質屋だった意匠が残っている。昭和時代には蕎麦屋として営業していたショーケースの名残も。平成になり建築事務所と資材倉庫になっていたため右側には大きなシャッターがある。現在は海野良太さんと三宅哲平さんが一階をアトリエ&ギャラリーにしている。
- Cghg -
住所:墨田区京島3-18-3
元々、三軒長屋だった内の真ん中が平家として残った建物。すみだノート編集部兼、架空列車・隅田河鉄道の無人駅「勝手口駅」兼、すみだノートの駄菓子屋さん「かってぐち」。
創刊6周年記念企画
2018年 創刊号
「こんなに大きくなりました!」
お陰様で、すみだノートは2018年6月の創刊から今年(令和6年)で6周年。
これを記念して今回の表紙は、創刊号と同じ場所、同じモデルで撮影してみました。
モデルの子供たちも大きくなっていて、サテライトキッチン店主の小畑さんもびっくり!
愛読者の皆様、今まで取材にご協力していただいた墨田区の皆様ありがとうございました!
そして今後ともご愛顧のほどよろしくお願い致します。