映画・演劇の街 すみだ

映画・演劇の街 すみだ

古くから娯楽街のまちとして栄えた墨田区は、映画や演劇は庶民の娯楽として親しまれてきました。現在も墨田区にゆかりのある映画の上映会や地域と寄り添う映画館も登場しています。演劇でも、本格的な劇場や稽古場があることから、区内外からも多くの役者や演劇ファンが訪れすみだのまちに賑わいを見せています。今号の特集では、すみだの映画・演劇を支える施設、人々を紹介していきます。

すみだパークシアター倉 支配人 篠原要さん

まちの外から来た人たちが広めた
「演劇のまち」すみだのイメージ

すみだパークシアター倉

すみだパークスタジオは、倉庫業を営む先代社長が、1993年に外部の方からの要望に応えて、倉庫の空きスペースを演劇のリハーサルスタジオとして貸し出したのがはじまりです

その後、小劇場ベニサン・ピット(森下)の閉館をきっかけに客席を譲り受けて、2010年に劇場「すみだパークスタジオ倉」を作り、その後2020年に大横川親水公園側に移転し「すみだパークシアター倉」が誕生しました。

2012年には、劇場に併設したギャラリーとカフェもオープン。稽古場や倉庫など、以前は一般人が立ち入れなかった場所に新たな交流が生まれました。

SASAYA CAFE
SASAYA CAFE

篠原さん:「演劇人の方々がお芝居や稽古後にまちに出て飲み食いするようになり、横川のエリアも徐々に賑やかになりました。演劇のまちすみだのイメージを、外から来た人たちが広めてくれたんです」

稽古場をはじめた当初から付き合いのあった、演出家の横内謙介氏(劇団扉座主宰)の誘いもあり、2019年には50才以上の大人を対象にした「すみだパーク演劇部・扉座大人サテライト」を開講。演劇塾の発足をきっかけに、すみだの物語を取り入れた演劇作品がつくられました。

同年、アートプロジェクト「隅田川 森羅万象 墨に夢」(通称:すみゆめ)の採択企画として初演を果たしたオムニバス短編劇「イースト・すみだ・ストーリー」は好評を博し、今年で4回目のすみゆめ参加となりました。

すみだパークシアター倉

「いつかはすみだのまちで演劇祭のようなイベントをやってみたい」と語る篠原さん。演劇を通じて、まちが活性化する未来を描きます。

すみだパークシアター倉

住所:墨田区横川1-1-10(入口は大横川親水公園側)
TEL:03-3622-0819

大横川親水公園に面し、ヴィーガンフードを楽しめるSASAYACAFE。カフェとギャラリーを併設した客席数170のフレキシブルな劇場で、小演劇からミュージカルまでさまざまな演劇が日々上演されている。

DUET むつみねいろ 舞踏家 ねいろさん

街に残る演芸の歴史と雰囲気が
舞踏の表現と響き合う

DUET むつみねいろ 舞踏家 ねいろさん

DUETむつみねいろHP

24歳の頃、ふとイメージが湧いてパントマイムを始めました。意を決してポーランドで2年間修行したのち、周りの勧めもあって帰国し、大野一雄舞踏研究所で舞踏を学びました。そこでパートナーのむつみさんと出会い、二人ですみだに越してきたのは2016年のことです。

自宅を兼ねた活動拠点の「ギャルリ雨」は東墨田の荒川沿いにあり、ダンプカーの駐車場や工場に挟まれた場所。組織に属さず活動している身で、十分な広さがあって音が出せるアトリエを持てたのはありがたいことでした。近所の職人さんが舞台の制作を手伝ってくれたり、週に一度の舞踏研究会に若い人や海外の人が来てくれたりといった、周りとの関係も生まれています。

シアターX(カイ)
シアターX(カイ)

たびたび公演をさせてもらっているシアターX(カイ)のある両国近辺は、江戸時代から興行が盛んな場所でした。昔は踊りや芝居をやる人は社会制度から外れた場所にいて、そうしたどこか影のある雰囲気は、街のなかでも感じられます。私たちの舞踏も、人間の明るみに出ない部分や何かへのアンチテーゼ、自分自身への問いかけが原点にあるので、人間の後ろ姿が感じられるような街の空気感は、自分の表現にも影響していると感じます。

シアターX(カイ)

ここ数年はコロナで止まっていましたが、今後は海外での公演も増やしていく予定です。舞踏の先人たちは、自らを含めた世界や宇宙の未知なる可能性に賭けて踊りました。私たちも少なくとも地球スケールで、やれるだけのことをやってみたいと考えています。

シアターX(カイ)

住所:墨田区両国2-10-14
TEL:03-5624-1181

旧両国国技館である日本大学講堂跡に建設された複合ビル「両国シティコア」内に1992年にオープンした劇場。劇場名のX(カイ)は、ギリシャ語で人々が行き交い、出会う場をイメージして名付けられた。

映画館ストレンジャー 代表 岡村忠征さん

墨田区に新たなカルチャースポット
ミニシアターが登場!

映画館Stranger(ストレンジャー)

昨年9月に都営新宿線「菊川駅」より徒歩1分の場所に、東東京初のミニシアター「映画館Stranger(ストレンジャー)」がオープンしました。上映作品は、特集作品を中心に、日本未公開の作品からムーブオーバーの作品まで、キュレイター自ら厳選した作品が公開されています。

岡村さん:「映画館で映画を鑑賞することが特別なことではなく、ふらっと立ち寄るような日常の暮らしの一部として楽しんでもらえたらうれしいですね」

暮らしと寄り添う「新しいスタイルの映画館」として、ストレンジャーでは、「映画を知る」「映画を観る」「映画を語り合う」「映画を論じる」「映画でつながる」の5つのテーマを掲げています。

映画館Stranger(ストレンジャー)

岡村さん:「ネット配信が主流になりつつある今の時代だからこそ、映画館のもつ魅力を打ち出し、映画を鑑賞した後や当館のカフェに立ち寄っていただいた際に、スタッフと映画の情報交換や感想を語り合ったり、お客様同士のコミュニティの場として、つながりを大切にしていきたいですね」

併設するカフェでは、コミュニティスペースとしての役割を持ちながらも、本格的なメニューを提供するために、バリスタが丁寧に淹れるコーヒーや中南米のエスニックフードなどメニューにもこだわりを持ちます。

映画館Stranger(ストレンジャー)

「非日常」であった映画を「日常」として楽しむことができる映画館が誕生したことにより、私たちのまちの新たなライフスタイルや地域コミュニティがさらに豊かになることに期待が持てます。

映画館Stranger(ストレンジャー)

住所:墨田区菊川3-7-1菊川会館
TEL:080-5295-0597

2022年9月に菊川にオープンした映画館。日本未公開作品など選りすぐりの作品も楽しむことができる。また、メニューにもこだわるおしゃれなカフェが併設されているので、映画をみた後の余韻も楽しむことができる。


昭和の映画館の記憶

全盛期は35館ほどあった映画館

戦前・戦後は、娯楽も少なく、工場などが多く点在していた墨田区では、工員や職人などに庶民の娯楽として映画が親しまれ、まちなかにも多くの映画館がありました。

区内最古の映画館は、戦前、業平橋1丁目にあった「業平座」で、1937年2月には、江東楽天地が設立され、同年11月には、本所映画館が開館。昭和20年代後半には、区内各所で35箇所ほどの映画館があり、暮らしの身近で映画を楽しんでいました。

京島には、映画館「橘館」ができたことにより、その通りは「橘館通り」となり、現在も、「キラキラ橘商店街」に名前を残すほど、地域にも親しまれていました。

墨田区は、映画館が多かっただけではなく、大正時代には、“近代映画スタジオ発祥の地”と呼ばれる「日活向島撮影所」や「高松プロダクション・吾嬬撮影所」があり、近代映画にも深く関わっていた地域でもあります。

昨年、向島地区で「映画文化と街づくり」をミッションとして「すみだのまちの映画館」準備会が立ち上がり、曳舟文化センターと協同して市民映画館を定期的に開催する取り組みを行なっています。

同会主催により、昨年の12月に曳舟文化センターで開催された、ウクライナ支援イベント「映画『ひまわり』上映会」に続き、東武線の曳舟駅付近(曳舟文化センターも含む)にあった資生堂の石鹸工場とその周辺が舞台となった「下町の太陽」(監督:山田洋次・主演:倍賞千恵子)が今年4月に上演されます。

「『下町の太陽』は、ストーリーはもちろん、当時の墨田区の街並みや暮らしの風景も楽しむことができます」と、『すみだのまちの映画館』準備会会長の佐原滋元さん。子供の時は、家の近くの映画館に通うのが楽しみだったと語ります。

昭和30年〜40年代の映画館と映画会の風景

両国会館 映画会
両国会館 映画会
吾嬬国際劇場
吾嬬国際劇場
江東劇場
江東劇場
石原ミリオン座
石原ミリオン座
第3寺島小 PTA製作映画会
第3寺島小 PTA製作映画会
昌和シネマ
昌和シネマ
墨田文化映画館
墨田文化映画館
本所映画館
本所映画館

取材協力:『すみだのまちの映画館』準備会
写真提供:すみだ郷土文化資料館