本屋はロマン


 様々な色と柄を背負った本たちの並ぶ本屋さん。読書離れが進むこの時代に本屋をやるのは何故かを問われ、男はこう答えた。

「本屋はロマンだ!」

高らかに主張した本屋の店主はすぐその顔を赤面させた。元来、人前で大声を出すことなど得意なタチではないのである。

 そんな彼の店には、今日も様々な服と表情を着込んだ人々が集ってくる。

ガラガラ〜

いらっしゃい

 店主は本に隠れて見えないが、棚の奥の入ってきたのであろうお客に向かって声を掛けた。返事の代わりに、ガサガサという袋の擦れる音が聞こえた。あーあ、宮さんが来たな。

 いつものように、お菓子を持ってやってきた宮さんは店主の真向かいに座り、いつものようにマシンガントークを始めた。そこへ

ガラガラ

お邪魔しまーす

という若い男の声が入ってきた。若い男はお菓子をつまむ店主と宮さんの様子を見て、怯んだ様子で「入って大丈夫でしたか…?」と聞いた。店主は答える。「もちろん。ゆっくり本をご覧ください」

 本を見始めた若い男のことが気になる宮さん。頃合いを見て、

「にいちゃん、うちの地元の菓子食うか?」

と言って、日本アルプスに生息する鳥の名前を冠したウエハース型のお菓子を一個渡した。「うわ、懐かしい! 」と声を張り上げた若い男。宮さんと若い男の地元はなんと一緒だった。じもトークで盛り上がった後、本を何冊か買って帰っていった若い男。遠ざかる若い男の背中から、ふと前に視線を戻すと、宮さんの顔もいつになく満たされたものになっていた。

 店主は言葉足らずでもある。本屋とロマンの間に大事な言葉を忘れていたようだ。

「本屋は(出会いの)ロマンだ」ってね。

本屋はロマン

林 光太郎
墨田区在住。
長野県塩尻市出身。
人生どん底の頃、小説を読み、生き長らえた経験から、誰もが気軽に小説を読めるようにするため創作活動に勤しむ。古民家をリノベした本屋「ものはいいよう」を開いている。