クリスカイツリー

「こうたー、もうねなさーい」
 ママの声がする。
「はーい」
 僕はお行儀よく返事をした。が、答えたものの、眠れるわけなどなかろう。僕は今日という日を楽しみに過ごしてきたのだから。そう、僕は今日、いや今夜、サンタさんを見るまでは眠らないのだ!
 夜更かしするための準備も万端。ゲームにお菓子、それらに飽きても、大丈夫。トイプードルのプーちゃんが、さっき懐に潜り込んできたのだ。眠たくなっても、プーちゃんが遊び相手になってくれるはず。

 30分後。プーちゃんが寝た。遊び相手がいなくなった僕は、目をこすりこすり、ゲームを続けた。

 さらに30分後。僕は作業服を着て、日本一高いタワーを見上げていた。
「さぁ今年も飾り付けをしていくか」
 後ろには色とりどりの思い出を持った人たち。作業車に乗り込む。僕はどんどん高く上がっていく。無線機で指示を出す。
「準備OKだ。1人目の人に代わってくれ」
 地上では、クマのぬいぐるみを持った男の子が、渡された無線機から声を発する。
「小さい頃からずっと一緒にいた、クマのマー君を寂しいのだけれど、スカイツリーにぶら下げたいです」
 少年は、下で待機していた作業員にマー君を渡している。マー君はクレーンをつたい、上に運ばれてくる。僕は落下しないように、しっかり紐でスカイツリーとマー君を結ぶ。
 その後も、思い出たちはどんどん上に運ばれてくる。太陽が目覚めてくるころには、日本一大きいクリスカイツリーが、そこに出来上がっていた。

「こうたー、おきなさーい」
「ふぁ~い」
 僕は急いで飛び起き、窓を開け、スカイツリーを見上げる。
 朝日を浴びたスカイツリーには、夢に見ていたような思い出たちはくっついていない。けれども、いつものように、そこにそびえ、僕に安心を与えてくれた。

スカイツリー

林 光太郎
墨田区在住。
長野県塩尻市出身。
人生どん底の頃、小説を読み、生き長らえた経験から、誰もが気軽に小説を読めるようにするため創作活動に勤しむ。古民家をリノベした本屋「ものはいいよう」を不定休で開いている。