シェアする街

 その街では何でもシェアされる。昭和期の団地よろしく醤油のシェア、車のシェア、そしてSNSよりも速い情報のシェア…。なんでもその街には、畑をシェアする場所まであるというのだ。そこには連日、畑を使いたい人が訪れるという。

 今日も畑を使いたい人がやってきた。
「味噌マヨきゅうりが大好きで…」と先輩ファーマーに語る、新人のA子さん。

 自分が使える畑面積いっぱいにきゅうりの苗を植えていく。
「あらら、そんなんじゃ苗同士が畑の栄養を奪い合って、上手く育たないわよ」
「えっ、そうなんですか」

 A子の立てた不恰好な支柱を立て直してあげながら、先輩は説明を続ける。
「そうよ。今後、他の野菜を育てる際にも必要になってk…」
「いえ!きゅうりしか育てません!」

 食い気味に答えるA子。
「あらら、よっぽどきゅうりが好きなのねぇ」

 先輩、何かを思いついたかのように両手をパチンと叩き合わせる。
「なら、うちのハウスで育てたきゅうりがあるから、食べて行かない?まだ早いから、小さめではあるんだけd…」
「いいんですか!?ありがとうございます!!行きましょう!!!」
「あらら、せっかちさんねぇ。片付けもしなくちゃいけないんだから…ちょっと手伝ってもらえるかしら?」
「はい!」

 この日先輩からシェアされたきゅうりを美味しそうに食べるA子の顔を見て、先輩も幸せを感じた。この街では、幸せもシェアされていくのだ。

シェアする街

林 光太郎
墨田区在住。
長野県塩尻市出身。
人生どん底の頃、小説を読み、生き長らえた経験から、誰もが気軽に小説を読めるようにするため創作活動に勤しむ。古民家をリノベした本屋「ものはいいよう」を不定休で開いている。