ハハノカレー


 僕は昔から身体が弱く、入退院を繰り返していた。

 冬、一時退院をした時に母は
「レトルトカレー」を温めて出してくれた。

 次の冬、退院した時に母は
「市販のルーを使ったチキンカレー」を作ってくれた。

 次の冬、退院した時に母は
「赤缶を使ったカレー」を作ってくれた。

 次の冬、退院した時に母は
「様々なスパイスを配合したスパイスカレー」を作ってくれた。

 次の冬、退院した時に母はいなかった。
「インドカレー」を習いに、インドへ旅立ったらしい。

 その時、姉に
「お母さん、病院食ばっかりで嫌だろうと太郎のために、苦手な料理を学び始めたんだよ。そのせいで、私達はカレーをしょっちゅう食べさせられているのよ」と言われた。

 母の気持ちが嬉しくて、次の冬、僕は母に「もうカレーは極めなくていいんだよ」と伝えてみたら、
「はじめは太郎のためだったけど、だんだんカレーづくりが楽しくなったの。今は私自身の生きがいよ!」と言われた。

 そうして、冬が来るたび、僕は進化していくカレーを食べている。

 母はカレーを作っては、華麗に振る舞い、加齢を重ねている。

ハハノカレー

林 光太郎
墨田区在住。
長野県塩尻市出身。
人生どん底の頃、小説を読み、生き長らえた経験から、誰もが気軽に小説を読めるようにするため創作活動に勤しむ。古民家をリノベした本屋「ものはいいよう」を不定休で開いている。