すみだ物語

人のものがたり

庶民が素顔で暮らす町で、昭和の風景を切り取る

映画監督 出馬康成さん

大阪出身の監督が墨田区に移り住んだのは、今から15年も前。その理由は「墨田区を舞台にした映画を撮りたかったから」。映画づくりに対するこだわりで、なかなか実現できなかった映画「愛の道草(仮題)」が今秋クランクインし、区内全域でのロケ撮影が始まります。
向島の花柳界を描いた単行本『芸者の粋と意地』の著者でもある出馬監督に、地元への熱い思いと、15年間も温めてきた新作映画への意気込みを語っていただきました。

出馬康成

墨田の映画を撮るために、墨田の住人になりました

−− 関西ご出身の監督と墨田区とのご縁は?

18歳のとき、大学進学のために大阪から出てきました。当時、映画が学べる大学は東京にある2校だけでしたから。大学に近い八王子に1年住んで、大学2年のときに渋谷に移りました。15年ほど前、墨田区を舞台にした映画を撮ろうという企画が立ち上がったんです。
当時すでに浅草は観光地として有名でしたが、吾妻橋を渡った墨田区はまだスカイツリーもなく、町工場や昔ながらの店が軒を連ねていました。人々の顔が見える町、庶民が素直で暮している町を舞台にした映画って、意外と少ないんですよ。そこで、昭和の風景だったり、人々の生き様だったりを、群衆劇として描きたいと思いました。僕が墨田区に住み続けている理由は、実は映画の舞台としてずっと考えていたからです。

−− 著書『芸者の粋と意地』では、向島を綿密に取材されましたね。

ちょうど10年前、仕事で芸者さんの映像を撮ったら反響が良くて、出版社から「向島あたりの芸者さんの本を書いてみませんか」と持ちかけられたのがきっかけでした。聞くところによると、戦前の花街の話について語れる人はもう3人ぐらいしか残っていないらしい。運良くそのうちの1人を紹介してもらえたのですが、その方こそ置屋における最高齢のおかあさんでした。すると、まわりの芸者さんも料亭さんも、「あのおかあさんが可愛がってる男の依頼なら断れない」と。僕、人生経験の長い女性にはモテるんです(笑)。
おかげさまで、当時は新参者だったにもかかわらず、たくさんの料亭から取材を許していただきました。だからこそ、東京で唯一にして最大の花街・向島と、そこに生きる女性たちを知るうえで、類を見ない一冊が書けたと自負しています。

出馬康成

15年ごしの地元愛を、一本の映画に凝縮させて

−− 監督みずから墨田の住人となり、長いあいだ温めてきた映画とは?

タイトルは「愛の道草(仮題)」。下町ならではの風景と登場人物で、ほろっとする群衆劇をつくりたいと思っています。主な登場人物は、七人の侍ならぬ、七人の消防団員(笑)。僕が住んでいる吾妻橋には、消防団員がよく来るモツ焼き屋さんがあるんです。そこで彼らを観察したら、取り巻く風景がとても面白かった。それで、映画の登場人物に仕立てた次第です。消防団は消防士と違って、一般人が兼務してるじゃないですか。ですから、映画の主人公は、消防団長を務める看板屋の親父さん。あとは、和菓子屋の若社長や相撲部屋の髪結いさんがいたり、ひとりは女性消防団員で向島の芸者さんだったり、そのほかのキャラクターは見てのお楽しみということで。
人情はあるけれど喧嘩っ早い、下町のとんでもない奴らの群衆劇は、来年の公開を予定しています。ちょうど今、ライターさんとシナリオを詰めているところです。

−− 墨田区内全域でロケを予定しているそうですね。

「自分の好きなテーマで、好きな役者さんを使って」にこだわっていたら、映画化まで15年もかかってしまいました。その間ずっと地元に住んでいましたから、毎日がロケハンしているようなものです(笑)。いい銭湯があったのに、無くなっちゃったなとか。仕事柄、区内のどこを歩いていもロケ場所としてどうか、なんて考えていましたね。
15年にわたる構想と思いを胸に、ようやく今年の秋から区内で撮影ロケがスタートできることになりました。地元の方々にご協力いただくことも多々あるかと思いますが、墨田の皆様とご一緒に映画をつくる気持ちで取り組んでいます。

出馬康成

出馬康成(いずま・やすなり)
29歳で劇場監督デビュー以来、数多くの作品を手掛ける。作品に「六本木フェイク 傷だらけの天使たち」「マブイの旅」「オバアは喜劇の女王~仲田幸子 沖縄芝居に生きる」「ソフテン!」「残波」など。

最新作「ギフテッド ーフリムンと乳売り女―」
タイトルの”ギフテッド”は、並外れた才能を与えられていても一風変わったふるまいが見られる人たちを指す。サブタイトルの”フリムン”は沖縄の方言で不良者、”乳売り女”は風俗店で働く女性のこと。物語の舞台は、青い空と海のイメージとは遠くかけ離れた沖縄の繁華街。普通の人にとっての幸せ感ではないかもしれないが、自分の信じた道を生きる20代の、熱くて痛い恋物語。
2018年5月19日()公開。
映画の詳細はこちら http://movie-gifted.com