下町情緒あふれるこの町に住み続けたい

講談師 神田紅

下町情緒あふれるこの町に住み続けたい

平成元年(1989年)は真打に昇進した年で、その年に私は杉並区からここ墨田区向島に引っ越して来て早30年が過ぎました。

ここ向島を選んだのは、それまで住んでいた杉並のマンションが地上げにあった時、親友のTさんから「紅、ここは花火が凄いのよ!」の一言を聞いたからでした。

つまり花火好きが高じてこの地を選んだのですが、来て見ると隅田川沿いは桜の名所でもあり、すぐ側にはいつしかスカイツリーまでそびえ立って、「春は桜 夏は花火 秋と冬はスカイツリー」を楽しむ生活にすっかりなじんでしまいました。

さて、コロナ騒動の間は寄席がお休みになったので、2か月余りを利用して私は「断捨離」に励みました。

すぐ近所に住む片づけ上手な親友Tさんの指導は厳しい。「これ、いつ着るの」「でも・・・」と試着し、10キロも太ってしまった現実を目の当たりにしました。

着物、洋服、資料と次々に整理するうちに、物置状態だった部屋の床が見えはじめます。「人生の棚卸をしているのよ」とTさんに励まされながら、過ぎ去った月日に自分なりの決着をつけて行いました。

今はあらたにここに越して来たような新鮮な日々が始まりました。下町情緒あふれるこの町に、私はこれからも住み続けたいと思っています。