日本の歴史が脈々と息づいている街・すみだ

チーム北斎プロジェクト代表 五味和之

日本の歴史が脈々と息づいている街・すみだ

私が初めて隅田川の東岸で仕事に就いたのは、昭和60年のことでした。墨田区にふるさと会館という名前の郷土資料館を建てるにあたって、展示計画を立てて欲しいという依頼があったのがきっかけでした。着任早々、この計画は立ち消えとなり、やむなく文化財の保護指導員として区内の歴史的な石碑や仏像、伝統工芸などの調査をすることになりました。また同時に区民をつれて、区内の史跡を巡る仕事もすることになりました。北斎美術館の仕事に移るまでの24年間、区内を歩き回り、本所や向島の歴史を調査し続けてきました。

実際に歩いてみると、関東大震災や東京大空襲という災害をくぐり抜けた古文書や建築物などがいろいろと残っていたのです。もともと区の北部、向島地域は古代からの交通の要でもありましたし、板碑と呼ばれる石製供養碑もかなり建てられていている歴史ある地域でしたし区の南部、本所地域は1657年の明暦の大火以降に埋め立てられた新興住宅地として、19世紀初頭に化政文化を創出するほどの賑わいを見せた地域でもありました。

日本史好きな私にとって、北斎が生きていた頃のままの道路や隅田川が流れるこの街は、刺激があって心躍る街町だったといえます。第一線を退いた今日でも、週に一度は散歩に来るほどの魅力的な街、それがすみだの街なのです。