私と梅子、そして向島物語

女優 中島唱子

私と梅子、そして向島物語

「下町には、色と音と匂いがある。」と詩的なことを言う向島の梅子さんは作家をめざしながら、向島のクロネコで毎日、荷物を運んでいる。

22歳からアメリカに渡る直前までの7年間。私は墨田区で暮らしていました。梅子さんと出会ったのはその時です。

向島生まれの、向島育ち。漆職人の安宅さんも、向島のとんかつ屋の日高さんも梅子さんを『ちぃーちゃん』と呼んでいる。向島の人は、気さくで、温かい。

『ワタシの生活とショーコちゃんの人生は全然ちがうよ』と言って、仕事の事もニューヨークの事も変化の連続の私の生活をうらやましがる梅子さん。

母の介護、4人の子供の子育て、仕事。そして、作家修行。

「幸せが遠いなぁ」と、向島の喫茶店マリーナでため息をつく梅子さん。

同じ町に住み続け、向島の人情溢れる人たちの中で、大きな笑顔で元気に生きている梅子さんの方が、私にはずっと羨ましい。

川と寄り添うように暮らせる町、墨田区。

苦しい時も、嬉しい時も、彼女の毎日の生活は、隅田川のようにキラキラ光っている。そして、その大きな笑顔が幸せを運んでいる。